新規事業に関する目標設定

時間とお金 事業戦略

新規事業について、会社側から担当部署、担当者への要望として、
事業規模が「○○億円」といった数値が伝えられることがあります。

企業として高い目標を掲げることは悪くはありません。

しかし、現実的にクリアすることが難しい目標が設定されているケースがあり、
さらに問題は、金額が設定されたことで、
新規事業やイノベーションの方向性が限られてしまう場合があり、大きな問題となっています。

今回は、新規事業の目標設定について考えてみたいと思います。

株主へ公表される「新規事業」の意味

近年、株主へ公開されるIR資料において、
新規事業への言及がされることが多くなりました。

たとえば、事業規模が1000億円の企業において、
3つの事業が柱となり、500億、300億、200億といった売上の場合、
「第4の柱として100億円の新規事業を創出」といったように
言及されているケースをよく見かけます。

「10年以内に」といった期限まで明記されていることもあります。
また、カッコ書きで「(M&Aも含む)」という明記もよく見かけます。

株主は、企業の収益が上がり、それに伴って株価が上がることを期待しています。
既存事業の成長率は、過去の数値から推測できるため、
それ以上の成長(株価上昇や配当金アップ)のためには、
収益性を向上させる施策や新規事業に期待が集まります。

そのため、株主へのIR資料にこうした文言を入れたいというのが、
経営サイドの本音と言えるのではないでしょうか。

株主目線で設定されてしまう新規事業の目標の危険性

株主へのPRや株価上昇を目的として、新規事業についての対外的目標を
設定し、公表することは、
結果的に新規事業につながらなくなってしまうリスクを生じさせると考えています。

たとえば、事業規模が1000億円で、
500億、300億、200億の3つ事業の柱がある企業が、
「第4の柱として100億円の新規事業を創出」と公表したとします。

100億円は、数字的に「座りの良い」値です。
最も小さい事業が200億円規模で、その半分のものであれば、実現の可能性が高く、
しかも企業の成長率としても高いものが見込まれると捉えるられるかもしれません。

これは、現在の事業規模を根拠として、
新規事業の目標数値が設定されているということになります。

しかし、実際に新規事業を立ち上げるプロセスを勘案すると、
たとえば10年ということを仮定した場合、非常に難しいことが見えてきます。

仮にスジの良い事案を事業化できたと仮定して、
年数を区切って、下記のようにイメージしてみましょう。

「3年で事業の立ち上げ、3年で黒字化、3年で100億円達成」。

こうしたことが実現できる可能性は、
かなり低いことがイメージできるのではないでしょうか。

10億円規模を10本といった設定を行うケースもあります。
10本の新規事業が全て成功して目標額が達成となりますが、
新規事業の成功確率は高くて3割程度ということを想定すると達成は困難と考えられます。

新規事業やイノベーションで目標値を設定することは難しい

ところで、大きな前提として、
新規事業やイノベーションは、未知の領域に挑戦するものです。

収益については、プロセスの最後のほうで見えてくる(付いてくる)ことも多く
初期段階で正確な目情値を設定するのは難しいものです。

目標値の設定としてできる範囲としては、
フェルミ推定を活用して市場規模を推測し、

四象限で「可能性」と「規模」を設定し、
四段階程度で数値を推測する程度が現実となります。

フェルミ推定による市場規模の推測については
下記の記事をご参照ください。

フェルミ推定によるマーケットサイズのつかみ方:いくらで売るかのヒント
新規事業やまったく新しい商品開発を進める場合、 どの程度の売上が見込めるか事業計画の立案を求められることが多いかと思います。 既存事業であれば、これまでのビジネスの進めるなかで見えてきた 大枠の価格帯、感覚があるため、それがベースとなるかと...

目標設定によって打ち手の方向性が限られてしまう危険性

新規事業について、株主目線での設定がされてしまうと
もうひとつ大きな問題が生じます。

冒頭にも触れましたが、新規事業としての方向性が限られてくるということです。

目標値をクリアすることができるかどうかが発想のスタートに入ってしまうと、
どうしてもその方向性での思考となってしまいます

たとえば、まれに1000億円以上という、大きな目標を掲げているケースがあります。
市場規模として考えてみましょう。
1000億円となると、金融、不動産の領域、あるいはM&Aでの対応でしか
達成できません。既存企業にとって新規事業としての「打ち手」は限られます。

金額をクリアするには、市場規模として特定の領域を選択せざるを得なくなるため、
その方向性の範囲で、思考が進められてしまいます。

全く新しい事業領域が開発できればクリアできるかもしれませんが、
これは「結果」からとなるため、事前には分からない類いだと考えています。

新規事業やイノベーションの進め方として、
市場の未決の課題を解決することからスタートすることがポイントだと考えられます。

未決の課題を発見するために
企業の強みや、個人の気づき、問題意識を結合していくことで、進めるというイメージです。

目標設定によって、市場の未決の課題への意識が、
薄まってしまうことも危険だと感じています。

そのため、新規事業については、対外的には目標として掲げない方針とすることが、
逆説的ですがイノベーションにつながる可能性が高くなると捉えています。

公開する場合においても、
企業として、このプロセスまで来たら公開(たとえば、既存事業の部署に、
事業の受け渡しがされた段階になったら外部に公開)といった
独自のルールを決めておくことが必要だと考えています。

まとめ

新規事業について、金額が設定されてしまうことで、
進む領域が限定されてしまい結果的に新規事業につながらない危険性があることを
解説しました。

新規事業やイノベーションへ取り組むことは大切ですが、
そこに過度な目標を当初段階から設定することは大きなリスクがあります。

新規事業やイノベーションにつながる可能性を最大化することを意識して、
取り組みたいものです。

本日も最後までお読みいただきましてありがとうございました。

補足

企業が新規事業やイノベーションで取り組むべきは、「市場の未決の課題」です。
下記の記事がご参考いただけるかと思います。

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