身近な課題への取り組みをイノベーション創出につなげる:養殖ウニのエサの事例

四つ葉のクローバー アイデア・発想

イノベーションは、新結合を意味し、新しい価値創出につなげる取り組みです。

しかし、新しい価値創出を目的に活動を進めてみても、
解決すべき課題が見えてこないために、次の展開に結びつかず、
なかなか進まないというケースが多々あります。

一方で、ごく身近なところで気づいた課題や、自身が直近で抱えることになった課題解決に
取り組んだことが、結果的にイノベーションにつながったというケースもあります。

近年、養殖ウニの業界で、植物性のエサを与えることで、
商品価値のあるウニを育てられるようなり、海の砂漠化を防ぐ糸口につながった
イノベーションが起こり注目が集まっています。

実はこのイノベーションのスタートとなったのが、
養殖ウニの研究が、予算不足のために既存のエサを購入できなくなり、
エサを確保しなくてはいけなくなったという課題からでした。

今回は、養殖ウニの事例をもとに、身近な課題に取り組んだ結果
イノベーションにつながったケースについて考えてみます。

海の砂漠化の原因となる「ウニ」の存在

現在、地球環境の大きな変化による海水温の上昇の問題が起きています。

海水温の上昇は、昆布やわかめといった海藻にも影響を与えています。
海藻は、貝類や魚のエサや住処としての役割を担っており、
生態系の柱となっているそうです。

海水温の上昇などによって「藻」が石灰化すると「サンゴ藻」が発生します。
「サンゴ藻」は細かな空洞部分が多く、これがウニの卵の恰好の住処となり、
ウニの大量発生につながります。

しかし、ウニが大量に発生してしまうと、周囲の海藻類を食べ尽くしてしまい、
海の砂漠化が広がってしまう
という弊害があるということでした。

ウニが大量発生しても、商品価値があるのだから、
採って、食べてしまえば良いと考えますが、

海の砂漠化に伴って大量発生したウニは、
エサとなる海藻類が乏しいために、「身」が大きくなりません。

そのために商品価値がなく、漁業関係の方も採ることを敬遠します。

すると、さらにウニが周辺の海に広がり、砂漠化を加速していく、
という悪循環につながってしまいます。

ウニのエサに陸上植物という「新結合」

九州大と宮城大の共同研究により、この問題を解決する糸口が見つかりました。

身の大きくないウニを、採取して
植物のクローバーをエサとして与えることで、
数ヶ月で、商品価値の高い身のつまったウニに成長させることができるという発見により、
漁師の方が、海の砂漠化の原因となるウニを採ることが現実的に可能となりました。

海洋生物であるウニに、陸上のクローバーをエサとして与えることができる
という発見は、新しい組み合わせ「新結合」であり、
新たな顧客価値を創造していることからまぎれもなくイノベーションと言えます。

ウニのエサとしてはこれまで養殖の際には昆布が与えられていました。
しかし、昆布は季節性があり、養殖のエサとして与えるには
輸送の問題もあり、高コストとなる課題がありました。

クローバーは言ってみれば雑草ですので、
農業経験がない方でも簡単に増やすことができます。
雑草ですので、手入れの手間もなく、コストも大きくはかかりません。

海の生き物だからエサは昆布という固定概念を打ち破ったということです。

これにより、大量発生したウニを商品価値のあるものに成長させ、採集へとつなげ、
海の砂漠化を食い止めるというプロセスが見えてきました。

研究の出発は研究予算不足というマイナス要因から

ウニにクローバーを与える発想は、研究室の予算不足という
マイナスの要因から出てきたものだそうです。

ある時に、研究予算が少なくなり、
エサとなる昆布が買えないという状況に陥ってしまいました。

そこで、ウニが雑食性であることに着目していたこともあり、
陸上の植物をいくつか試しに与え、研究を続けたところ
クローバーが最も適してることを発見したということでした。

ここにイノベーションのヒントがあります。

研究室の予算不足という身近な
マイナスの要因、課題を解決しなくてはならないことが
研究のスタートとなっています

イノベーションは、市場の課題や
マイナスの環境をどうにかしたいというところから
スタートする場合があります。

一方で大きな市場の課題というのは、なかなか見えてこないものです。
そのため、身近なところで何らかの課題を発見した場合、
解決に取り組んで見ることが重要だと言えます。

取り組む中でさらに大きな課題の発見、あるいは解決につながるケースがありますが、
取り組み初期では、どのような結果につながるか見えない部分がありますので、
とにかくまず、進めてみる意識がポイントとなります。

まとめ

ウニのエサのイノベーション事例を見てきましたが、
そのスタートは、研究予算不足という悩み、問題からとなっています。

身近な課題を考えることで
新製品や新しいサービスにつながった事例は
これまでたくさんあります。

こうした課題意識を持つことが
新規事業やイノベーションにおいては重要なことだと言えます。

ちなみにクローバーウニは
2023年頃の商品化を目処に、事業化が進められているということでした。

味については、海藻をエサとしたウニと比べて遜色がなく、
むしろ生臭さもないということで、人気となりそうです。

本日も最後までお読みいただきましてありがとうございました。

補足

養殖うにの事例では、研究開発予算がないことがスタートとなっていましたが、
新規事業においては、「未決の課題」をいかに見つけ出すかがポイントとなると
考えています。下記の文房具業界の事例も是非ご参考ください。

「市場の未決の課題」を見つける:文房具業界の事例
B2Cの業界では、新製品として、 新しいものを開発し市場に出すことが命題となっています。 今回、文房具の業界の新製品の取り組みについてご紹介いたします。 文房具業界というと、かつてはロングセラーの事務用品を中心に、 安定した製品供給を行うと...

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