フェルミ推定によるマーケットサイズのつかみ方:いくらで売るかのヒント

朝焼けを見る人 新規事業

新規事業やまったく新しい商品開発を進める場合、
どの程度の売上が見込めるか事業計画の立案を求められることが多いかと思います。

既存事業であれば、これまでのビジネスの進めるなかで見えてきた
大枠の価格帯、感覚があるため、それがベースとなるかと思います。

しかし、まったく新しい事業や商品の場合、マーケットサイズがどのくらいなのか、
分からないケースがほとんどで、苦労されている方もいるのではないでしょうか。

今回は、こうした
「まだ存在しない市場のサイズ感」をつかむためにはどのように考えれば良いか、
「フェルミ推定を使った方法」についてお話しします。

日本企業が考えがちな価格決定方法

マーケットサイズを考える前に
多くの日本企業で行われている「値決め」について考えます。

多くのケースでは、
新しい商品を市場に出す場合に原価や開発費、人件費といったコストに加えて、
利益が30%くらいは欲しいとプラスをして価格を決定しています。

コストから価格を算定するという手法です。

実はこの値決めが問題で、
日本企業が利益率を低くしてしまう要因のひとつとなっています。

また、価格を決定する会議で、
営業担当の方が大きな発言権を持っているケースをよく見かけます。

営業担当の方が、値決めに発言権を持つと、利益率が低くなる傾向があり、
「お客様のためになるべく低価格で」といった掛け声のもとで、
販売価格を当初想定より安くすることにつながってしまいます。これが問題です。

冷静に考えれば分かることなのですが、
営業担当者の方が安い価格を提案するのは、「売ること」を考えた場合、
安いほうが売りやすいからです。

顧客のためでも、会社のためでもなく、
売りやすいという理由のために値決めをしてしまっているのです。

こうした事態を防ぐためには、開発の方が、値決めについては
強い権限を持ち、主張をしなくてはいけません。

そのためには、マーケットサイズを推測しながら、
それを足がかりに「いくらで売るか」を考えていきます。

ここで必要なのは、「いくらなら売れる」ではなく「いくらで売る」という考え方です。

「フェルミ推定」とは何か

事業計画を提示する際に、説得力がある値段、数値を提示するためには
すぐにできる方法として、「フェルミ推定」を活用するのが便利です。

「フェルミ推定」は、実際に調査するのが難しい数値を、
いくつかの手掛かりをベースに、理論的に推論する方法です。

1938年のノーベル物理学賞を受賞した物理学者のエンリコ・フェルミが
こうした概算を得意としていたことから、名前が付けられました。

1980~90年代のアメリカ企業で
入社試験として出題されたことで有名となり、
マイクロソフトやコンサルタント会社でも出題されていました。

また、日本でも「地頭力」というキーワードで
フェルミ推定が流行りましたので、ご存知の方も多いかと思います。

フェルミ推定としてよく知られているのが、
「アメリカのシカゴには何人のピアノの調律師がいるか?」という問題です。

知っているかそうでないかではなく、
人数を推測する思考のプロセスが試す問題だというところがポイントとなります。

思考のプロセスとしては、
まず、以下のようなデータを仮定していきます。

・シカゴの人口は300万人とする
・シカゴでは、1世帯あたりの人数が平均3人程度とする
・10世帯に1台の割合でピアノを保有している世帯があるとする
・ピアノ1台の調律は平均して1年に1回行うとする
・調律師が1日に調律するピアノの台数は3つとする
・週休二日とし、調律師は年間に約250日働くとする
・そして、これらの仮定を元に次のように推論する
(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)

ここからさらに、思考を進めていくと、大まかな解答が見えてきます。

この「フェルミ推定」の思考プロセスがマーケットサイズを推測する際に役立ちます。

「フェルミ推定」を用いたマーケットサイズの推測

マーケットサイズの推測は具体的には次のような流れで進めます。

(1)基礎情報の収集
・人口
・カバーする範囲の距離や面積
・顧客として想定される層の平均収入
(2)商品、サービスのイメージの確定
・可能な限り多くの商品やサービスのイメージを列挙
・基礎情報から、販売可能な金額と販売個数を推定
(3)商品ライフサイクルの推定
・年度別(人口参照)でマーケット展開

といった流れです。

他に、
・シェアを想定した売上予測。(ライバル企業の登場)
・利益率の変化

などを考えていきます。

こうして算出されたマーケットの規模、売上、利益率を
経営計画に盛り込んで、いくらで売るかを提案していきます。

基礎となる数字のベースから推測を行っているため、説得力をもった数字となります。

まとめ

マーケットサイズの把握に「フェルミ推定」を使うと
それほど多くない情報であっても論理的に、数値を算定することが可能です。

フェルミ推定だけがマーケットサイズの把握ではありませんが、
勘と度胸だけで決めていってしまうと、成功失敗の検証も難しくなってしまいます。

フェルミ推定で出てきた仮説を武器として、
未知の市場に取り組むことで、
取り組みそのものが企業の経験として価値をもってくると考えています。

本日も最期までお読みいただきましてありがとうございました。

追記

価格決定=値決めについて、キーエンスの事例を下記の記事で紹介しています。
是非ご参考ください。

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