新規事業、イノベーションにつなげる自社の強みの見つけ方

新規事業

新規事業やイノベーションの創出をスタートさせる際には
まず、自社の強みを把握することが必要です。

イノベーションは「新結合」です。
自社の強みと別の要素を組み合わせることで、
これまでにはない価値を生み出すということが王道的な対応となります。

そこで、今回は自社の強みの把握について解説いたします。

今回の結論は

・顧客に自社の強みを聞いてみる
・知財から判断する

の2つとなりますが、次の章から詳しく見ていきます。

MOTにおける新規事業、イノベーションの進め方

新規事業やイノベーションは、
一人のビジネスパーソンの発意から起こる場合もありますし、
顧客の意見がヒントとなってプロジェクト化される場合もあったり、
あるいは、経営者が大きな方向性を示すなかで生まれてくる場合もあります。

教科書的取り組み方として、
MOTで解説される新規事業の大きな流れについて、下記のようなものがあります。

(1)自社の強みを改めて考える
(2)市場環境を分析し、
   自社の強みを活かし新たな価値を提供できる領域を決定
(3)ロードマップを作り、具体的な研究開発の進め方、製造ラインなど
   の整備、事業、製品、サービスへの落とし込みの策定
(4)収益化

ところで、冒頭でも触れたように「イノベーション」は「新結合」を意味します。

イノベーションとは:イノベーションは「技術革新」ではなく「新結合」
「イノベーション」という言葉を聞くと、 多くの方が「新技術」「技術革新」と連想されないでしょうか。 しかし、本来のイノベーションという言葉は「新結合」を意味します。 実は、イノベーションは「技術である」という誤解が、 長年、日本企業にとって...

新規事業や新商品を開発する最にも、
この「新結合」を念頭に行うことが極めて重要です。

組み合わせについては、
「自社の既存の強み」を基軸とすることが
競争優位性の観点からも適切だと考えます。

そこで、新規事業などの担当者になった方は、
まずは、「自社の強み」について改めて考えてみることが必要となります。

「自社の強みは、自分たちが一番よく分かっている。
 改めて調査する必要はないのではないか」とお考えの方おられるかと思います。

しかし、次の2つのことを試してみることで、
認識していたものとは異なる「自社の本当の強み」が見えてくるかもしれません。

自社の本当の強み知る方法(1)「顧客に聞く」

自社の本当の強みを知る方法の1つ目は、
「顧客に聞く」ことです。

「なんだ、そんなことか」と思われたかもしれませんが、
次の2つの事例を御覧いただくと、
自分たちの自社に対する認識と第三者の認識、あるいは強みが
異なる理解をされている場合があることが見えてきます。

農機具メーカーの事例

A社は農機具を販売する会社です。

農業従事者人口が急激に減少していることに伴い
農機具の売上も、減少に歯止めがかからないことから、
新しい領域への進出を模索していました。

A社は農機具の開発力には自信を持っており、
それは技術力に支えられていると考えていました。

また、全国CMも展開していることから、ブランド力にも自信を持っていたのです。

ある時、改めて自社の強みについて、
顧客を訪ねて、調査したところ、製品購入の理由について、
「農協で勧められたからだ」という答えが圧倒的という結果が見えてきました。

「A社が技術やブランド力についてがあるから購入した」という
意見はほとんどありませんでした。

ここからわかることは、
A社の強みは、技術力やブランド力というよりも、
全国の農協職員との太いパイプである可能性が高いということです。

社員たちは、自社の技術やブランド力について、
特に大きな会社であれば、根拠もなく「ある」と思ってしまいがちです。

そこから脱却して、客観的に自社がどのように見られているか、調査をすることは
改善の打ち手の第一歩となるため大きな意味があるのです。

その後、A社は、農協職員との太いパイプを生かして、
衛星やAIを活用した、新しい農業のあり方を試験的に行い
話題となっている「スマート農業」の分野への事業展開を進めています。

もう1つ、少し異なる切り口から事例をご紹介します。

M&Aと人材の事例

B社は、自社のコールセンター補強を目的として、
コールセンター事業を行っているX社をM&Aによる買収を検討していました。

X社買収を検討した理由は、
B社の既存のコールセンターの拡張、人材確保のほかに、
X社の対応プロセスや、担当者育成が非常にスムーズで、
そうしたノウハウを吸収したいということがありました。

しかし、調査を進める中で
実はそうしたノウハウは、社員Cさん(個人)の力によるものだと分かります。

X社の経営者は自社の対応プロセスや人材育成について
自信を持っており、強みと捉えていましたが、
実は「社員Cさんを雇用していた」ことが強さの源泉であり、
そのことに気がついていませんでした。

その後、B社は、X社買収を中断し、
Cさんを好待遇でスカウトする判断をします。

冷酷な対応のようにも思いますが、
一社を購入するのと、一人の社員を雇用する場合に必要となる
金額を比べれば、この判断は合理的と捉えられます。

また、B社はCさんをそれほど高く評価していませんでした。
自社の強さの源泉がどこにあるのか、認識を誤っていたため、
Cさんが引き抜かれても、大したこととも思わなかったようです。

このように顧客から見た自社の強みは、社内から見た場合と異なることがあります。

顧客の方を訪ねた際に、「うちの強みは何ですかね?」と
聞いてみることだけでも構いません。
それまでの認識とは違っていて、驚く場合があります。

自社の強みを考える(2)「知財から判断する」

もうひとつ「自社の強みを知る」うえで強力な方法として
「知財からの判断」についてご紹介します。

この方法は、特に製造業や技術に強い企業で用いると大きな効果を発揮します。

自社の知財については、知財担当者でもなければ、
すべてを見る機会はあまりないかと思います。

しかし、企業としてこれまで出願された知財を
見ていくことで、具体的にどこに強みがあるのかが明確に見えてきます。

具体的な進め方としては、
まず、自社のすべての「特許出願書」のデータやファイルを入手します。
件数が300件以下であれば、
一人の担当者が「特許出願書」の全ページに目を通します。

多い場合でも、できれば全ページに目を通したほうが良いのですが、
膨大な膨大な件数の場合は、「請求項」だけに絞っても構いません。

本格的に進めるのであれば、複数の若手とベテランの組合で行います。

特許出願書に馴染みがない方は、最初は何を読めばよいか戸惑うかもしれません。
しかしご安心ください。複数の書類を見ていくうちに
自然とどこがポイントかが分かるようになります。

分からないところは読み飛ばして構いませんので、
次々に読み進めていただきます。

そこでの気付きについて、メモなどをしてくと後々便利です。

複数の方で作業を行う場合は、終了した段階で、
報告書や議論などを通じて、強みについての気づきを共有します。

こうすると、不思議なことに、これまで自社の「強み」や「コア技術」として
漠然と認識されていた技術が、より鮮明に「どこが強いのか」について
見えてくると思います。

これまで認識していた強みとは違うものが見えてくる場合もあります。

「特許出願書」を見る作業を通じて見えてきた強みと、
別の要素を組み合わせることで、
自社にしかできない新しい価値を生み出すことの
第一歩につながります。

まとめ

自社の強みについて、社員の方々は「よく理解している」と考えがちですが、
その認識が誤っていたり、理解が浅かったりする場合があります。

しかし、そのことに気がついていないケースも多いので、
自社の強みについて一度改めてお考えいただくのも良いかと思います。

本当の強みが見えてくると、社会課題に対しての自社オリジナルの
解決方法を見出すことができるかもしれません。

本日も最期までお読みいただきましてありがとうございました。

補足

日本企業全体に共通する強みにつては、「カイゼン」などを含めた
日々の連続的なイノベーションがあります。下記に詳しく解説していますので、
是非、ご一読ください。

連続的イノベーションを意識的に起こす:日本企業の強み「連続的イノベーション」を意識する
イノベーションを大きく2つに分けると 「連続的イノベーション」と 「非連続的イノベーション」があります。 「連続的イノベーション」というのは、 既存の製品やサービス(とその背景)で改善や改良を加えるものとなります。 イメージとしては、階段を...

参考となる書籍の紹介

すこし横道にそれますが、知財についてご関係の部署以外の方にも
知っていただくことが重要かと思います。

下記の『キヤノン特許部隊 』は読みやすく、
知財の本質について、
アメリカのゼロックス社と、キヤノンの間で行われた攻防を通じて、
よく理解ができる一冊です。

(この書籍になかに登場するエピソードは、NHKでも取り上げられましたので、
ご存じの方も多かもしれません)

著者の丸島義一氏は、日本を代表する知財のプロフェッショナルで、
その考え方の基軸は、現在も通用するものです。

 

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