新規事業開発や新商品開発を行うなかで、
自社の強みを活用して、新しい分野に取り組む場合があります。
自社の強みのある分野では、
社内にも、関連する分野の専門家が多くおられることと思います。
こうした社内専門家は非常に頼りになりますが、
時に、新規事業、新製品創出の阻害要因となる場合もあります。
今回は、社内の専門家に相談する際の注意点についてお話しします。
社内の専門家が、 その分野の全てを知っているわけではないこともある
最初に架空のS社で起きた失敗事例を見ていきます。
S社では「商品X」の開発プロジェクトをスタートさせました。
「商品X」は、顧客への調査から見えてきた課題を解決する商品で、
これまでの製品とは異なる優位性が機能として期待されました。
しかし、「商品X」には、ある技術課題があり、
それをクリアしなくては商品として市場に出すことはできません。
調査段階では、
自社であれば、技術課題はクリアできると推測されていました。
本格的にプロジェクトを進めるにあたって、
その技術について社内で最も詳しく、技術職で最高位にある
「技術フェロー」に技術課題について相談をすることしました。
ところが、「技術フェロー」が言うには、
「その技術課題は、数十年前にも社内で取り組んだが、非常に難しいという結論であった。
状況は今も変わらないためできないのではないか」
ということでした。
この分野では社内で専門家といえる技術フェローの言うことですから、
プロジェクト参加者も重く受け止め、
経営判断もあり、プロジェクトは中止となりました。
それからしばらくして、
別の企業C社から、「商品X」に近いものが発売されます。
S社では、C社の要素技術と開発経緯などをすぐに調査しました。
そこで分かったことは、問題となった「技術課題」は、
海外のベンチャー企業が新しいアプローチで開発に成功していたこと。
そのアライアンスにより、商品化を実現したことが分かります。
プロジェクトの担当者だった方は、改めて技術フェローに問合せをしました。
すると、
「その技術課題に、海外ベンチャーが行ったような解決策があるとは
思いもよらなかった」
と説明をされたとのことでした。
技術へのプライドが、無意識に悪影響を及ぼす
ここからが本題となります。
自社で特定分野の技術に最も詳しい方、
あるいは「技術フェロー」といった技術職の高位にある方は、
その分野について、最新技術も含めて全て知っているという先入観
があるということです。
そのため、「この人が言うのだから」と、
そこで関係者の思考が止まってしまうことは危険です。
どのような方、あるいはどのような会社でも
「自分の」技術にはプライドがあります。
技術へのこだわりは、無意識に
「ここで発明したものではない」という理由から
無視・軽視または敬遠してしまう場合があります。
Not Invented Here 症候群(NIH症候群)という言葉がありますが、
多かれ少なかれ、どなたにでもそうした思考のゆがみが生じえます。
技術的に詳しい方の説明であっても、
その提案、解決策が全てではなく、可能性を探っていくことが大切です。
技術フェローの方は確かに専門家だと言えます。
しかし、他社には、その分野にもっと詳しい人がいるかもしれません。
あるいは、その技術とは全く違う分野の人の意見のほうが、
新しいことを行う場合には、役に立つケースもあるようです。
このため、担当者の方は先入観をなるべく取り払い、
さまざまな方向性で考えることが重要です。
1つの解決策としては、頭の片隅でも良いので、
オープンイノベーションについて意識しておくことです。
他社との協業を意識することで、自社の枠組みとは異なる切り口での
情報収集につながります。
切り口の異なる情報から、目指していた新規事業を実現する
別の方法が見つかる可能性もあります。
まとめ:社内の専門家の意見は頼りになるがそれが全てではない
社内の専門家の意見はとても頼りになります。
しかし、それが全てではないという認識が重要です。
ご担当の方は「別の可能性があるのではないか」について、
場合によっては、企業という枠組みから離れて、客観的に見ていくことも必要です。
オープンイノベーションの意識を持つことで、
自社とは異なる切り口の情報につながる可能性がありますので、
意識していただくと良いかと思います。
本日も最後までお読みいただきましてありがとうございました。
補足
自社開発について、海外企業では日本企業とは異なる反応を見せています。
下記の記事もご参考いただければと幸いです。
参考となる書籍のご紹介
オープンイノベーションについては、下記の
『オープン・イノベーションの教科書』が
東レ、デンソー、帝人、味の素、大阪ガスから、フィリップス、P&G、GE
などの事例をふんだんに紹介しており参考となります。
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