「トレードオフ」の解消はイノベーションの種となり、3つの副次効果を生み出す

天秤 イノベーション

2019年にノーベル化学賞受賞された
旭化成名誉フェローの吉野彰さんが
ストックホルムで記念講演をされています。

吉野さんはリチウムイオン電池を開発した功績により、
ノーベル賞化学賞を受賞しています。

リチウムイオン電池は、「小型・大容量・軽量」を特徴としており
現在のようにスマホが長時間使用できるのも、リチウムイオン電池のおかげと言えます。

電気自動車のバッテリーとしても活用されており、
今後、脱炭素社会に向けた動きが加速化されるなかで、
重要な発明として位置づけられています。

「持続可能な社会実現のために、リチウムイオン電池が中心的役割を果たす」
ということが講演では語られていました。

吉野さんの重要なメッセージとして、
「『環境問題』と『経済性、利便性』は
必ずしもトレードオフの関係ではないことだと考えています。」

があり、インタビューなどでもたびたび語られています。

これはイノベーションを考える上で、極めて重要なメッセージです。
なぜなら「トレードオフの関係を解決する」ことは、
イノベーションの大きなテーマであるからです。

今回の結論は、トレードオフの問題は、イノベーションのタネの宝庫であること。
また、解決はイノベーションに通じるとともに、
「知財」と「信頼」という大きな2つの副次的効果ももたらすということです。

トレードオフについて、次の章から考えていきます。

「トレードオフ」とイノベーション

「トレードオフ」とは、「一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ない」
という状態・関係のことを示します。

経営学の考え方では、
企業戦略において「選択と集中」という言葉で表されるように、
決断すべき事項だと考えられています。

経営判断を行ううえでは、トレードオフの状況においては、
いずれかを選ぶかについて、
それぞれの選択肢のメリットとデメリットを見極めた上で、
決定を行わなくてはいけないとされています。

しかし、イノベーションの観点からは、
トレードオフをいかに解消するかを考えることで、
新しい価値の大きなヒントとなります。

トレードオフの関係というのは、「市場の未決の課題」です。
新規事業やイノベーション創出から言えば、アイデアの宝庫とも言えるのです。

トレードオフ解消の成功事例

トレードオフの関係を解消することで、
新しい価値を生み出した企業事例をご紹介します。

複合機メーカーのF社では、
インクカートリッジについて使い捨てであったものを、
リサイクルしたいと長年考えてきました。

環境負荷を考えるとリサイクルが望ましいのですが、
コスト面から考えると、リサイクルの仕組みを導入しないほうが優れていました。

環境負荷と経済価値がトレードオフの関係という典型的な状況でした。

経営陣は、環境への負荷を軽減することが企業にとって大きな価値になるとし、
トナーカートリッジのリサイクルの実現を経営課題として取り組むことを決意します。

リサイクルを行うために、
顧客へ販売した製品(トナーカートリッジ)についての回収を行うと同時に
リサイクルしたカートリッジの再資源化を行いました。

初期の段階では、リサイクルを行ったほうが、金銭的にはマイナスとなってしまう状況でしたが、
経営陣の強い意志としてリサイクルを行い、併せて至上命題として「黒字化」を目指します。

最初は社員の多くが「無理だ」と思ったそうです。
しかし、課題があれば知恵が生まれてくるのも真実のようでした。

商品企画段階から、回収・リサイクルを見据えてゼロベースで考え抜くことで、
さまざまな工夫が生まれました。

たとえば、設計段階から部品のモジュール化を進め、
モジュールの組み合わせによって、
世代や機種を超えて活用できる部品を少しずつ増やしていったそうです。

これ以外にも様々な工夫がなされ、その結果、約7年の歳月を経て、
リサイクルを行ったほうが、経済的にメリットがあるという状況を作り出しました。

トレードオフに取り組むことで生まれた2つのメリット ~知財と信頼~

F社の道程は平坦なものではありませんでしたが、トレードオフ解消に成功しました。

しかも取り組む過程で2つの大きなメリットを生み出しています。

1つ目のメリットは「知財」です。
トレードオフの関係を見直すためには、
事業の根本から考えて、ひとつずつ新しい工夫を積み上げていく必要がありました。
そのなかで、これまでにはなかった多くの「知財」が生まれました。

ここで生まれた「知財」は、圧倒的な競争優位性を生み出しました。
新しいイノベーションを志向するうえでも強力な武器となったそうです。

2つ目のメリットが、海外の国々からの信頼です。

環境の課題に積極的に取り組んだことで、
環境問題に課題がある国々からも信頼が得られるようになりました。

信頼が得られた国では、F社の製品が使われるようになりました。

その国に進出する際や、リサイクル拠点を作る際にも
F社は大きく評価されているため、スムーズに進むという状況にもなりました。

この2つのメリットは、
トレードオフの解消に取り組みはじめたときには、想定していなかったものだそうです。

F社はトレードオフ解消という課題に果敢に取り組むことで、
大きな宝物を手に入れたのでした。

まとめ:トレードオフの解消に取り組むことの価値

トレードオフの解消は、一朝一夕ではできません。
しかし、だからこそ企業が取り組むべき価値があります。

事例として紹介した企業では、3つ目の効果として、
環境の課題に取り組むようになって、社員たちがいきいきしてきたそうです。

難しい課題であっても、
それが世の中にためになると感じられれば、苦労とは思わなくなります。

そして、いきいきと働けるからこそ生まれてくる知恵もあるようです。

御社が今、事業のなかで取り組むべきトレードオフの解消は何でしょうか。
そこに新しい価値の種があると考えています。

最後までお読みいただきましてありがとうございました。

補足

SDGsが注目を集めていますが、ここで掲げられている17の課題を解決するために、
トレードオフ解消の意識がヒントとなりそうです。ご参考いただければ幸いです。

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参考となる書籍の紹介

トレードオフの解消を念頭に置いた思考の重要性は
下記の『ビジョナリー・カンパニー』に
「ANDの才能」として登場しており、
対局となる「OR思考」への警鐘も含めて、参考になります。
是非ご一読ください。

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