(28)『日本の健康産業の第一人者』田中恒豊さんが語る 人生の成功法則:環境が人を変える。しかし、その環境も人が作る

『日本の健康産業の第一人者』が語る 人生の成功法則

本記事は
日本の健康産業の第一人者である
田中恒豊(たなかつねとよ)さん(故人)への
2014年頃からの長期インタビュー(インタビュー当時80歳代)
を書き起こしたものです。

田中さんは、戦後の大きな時代変化のなかで、
日本で初めてのフィットネスクラブを設立された方で
「日本の健康産業の第一人者」として知られています。

今回は、田中さんがスポーツジムを運営するなかで
特に印象に残っているお客さんとのやり取りを中心に
話が展開されています。

時代背景などもお含みのうえ、お読みいただければ幸いです。

現在、大きな変化の時代を迎えていますが、
時代が動くときに、どのような判断を行うべきかといった
考察の参考になると考え、
ご関係者の方のご了解を得まして、記事を掲載いたしております。

毎週土曜日に更新の予定です。

お客様からいただいた言葉

その後、全国に健康クラブが次々とでき、
「ジム」や「フィットネスクラブ」という言葉も定着しました。

私も東京近郊はもちろん、
名古屋や関西方面でも健康クラブの設立のお手伝をしました。

こうした健康クラブの企画・運営を通じて色々なお客様と出会いました。

今回は、今も心に残る方々のことをお話いたしましょう。

ある時に銀座の健康クラブに行きますと、
知人のひとりに声を掛けられました。

「お、田中社長、忙しそうだな。ところで、
あそこで40代の夫婦がいるだろう。あのふたりは何をしに来ていると思う?」

見れば夫婦で揃いのジャージを着て、ルイスウオーカー使って歩き続けています。

ふたりとも額に汗をして、鬼気迫る迫力があり、
何か健康上の理由があるように見受けました。

「減量か、血圧を下げるような目的か何かで来ているかな?」と言うと、

「健康クラブの社長らしい発想だけど、
違うんだな。あの二人は切実なんだよ。話を聞いてご覧よ」

そして、二人がルイスウオーカーの足を止めて、
汗を拭きながら休憩をしているところで話しかけました。

「今日は、健康クラブに来ていただいてありがとうございます。
社長をしている田中です。
失礼ですが、おふたりはどのようなことで
いらしているかうかがってもいいですか?」

返ってきた答えは意外なものでした。

「実は、私たちには子供がいるのですが、
その子が重度の障害を持っているんです。

少しでも良くなればと、あらゆる手を尽くしたのですが……。
だんだんと精神的に追いつめられていきました。

ある冬の日に、家族三人で海に行ったんです。
子供の車いすを押して、波を三人で見ていたときに、
ふと気が付いたのです。この子は、神様から授かった子だと。

なぜか妻もその時に同じようなことを感じたようでした。

夫婦二人助け合ってこの子の面倒を見ていこう、
そのためには健康に気をつけて、
長生きをしなくてはいけないと思いました。

介護のためにも筋力も付けなくてはいけません。

それであちこちのスポーツクラブを見学・体験に行ったのですが、
最後にこちらに行き当たりました。
この健康クラブはスピリッツがあります」

この夫婦が感じたスピリッツというのは、
運動をしている他の会員たちの真剣な姿であったかもしれません。
健康というものは自分のためだけはなく、周りの人たちのためでもあるのです。

環境が人を変える。しかし、その環境も人が作る

もうひとり、心に残るお客さんがいます。

福島県の健康クラブのお話です。
体験参加を希望する40代の男性の方がお見えになりました。

スウェットで来られたその男性は一見普通の人のように見えるのですが、
歩く姿に何とも言えない貫禄があり、
メガネの奥には非常に鋭い目つきがありました。

顔が少しむくんでいたので健康目的だろうとすぐに分かりました。

体験の理由を聞くと、
「医者から運動を勧められました。
有酸素系の歩くような運動をしなさいと、こちらをご紹介いただいたのです」
と丁寧に答えてくれました。

体験の手続きの書類を記入してもらっていると、
ふとペンを動かす手を止めて、

「実は背中に刺青が入っているのですが」とおっしゃいました。

その時に対応をしたのが、
私が社員のなかでも特に信頼を置いている
副社長の川下さんという女性でした。

川下さんは、日本の健康クラブ創生期に
アメリカで運動指導の方法を学び、
その指導方法を日本に広めたスポーツインストラクターの第一号でした。

私の健康クラブ運営の理念も非常によく理解をしてくれている人です。

「刺青ですか。本来でしたらお断りをするところなのですが、
せっかくお医者様のご紹介でこちらまで足をお運びいただきましたので」

と説明し、お客様には長袖のシャツを着てもらいたいことと、
シャワーやサウナ、プールは使えない旨を説明したところ、
「それでも構わないので運動をさせてください」と言うのです。

それではと、ルイス・ウオーカーを1時間ほど使ってもらったところ、
運動を終えた男性が受付の川下さんに、

「こんなに気持ちの良い汗を流せたのは何年ぶりのことでしょうか。
ありがとうございました」
と、気に入った様子でした。

その後、週に一度ほどのペースでお越しになり、
長袖のシャツを着て1時間ほど
ルイス・ウオーカーで歩くことが数ヶ月ほど続きました。

ところが、それからしばらく後、
急にその男性が全くお見えならなくなりました。

定期的に健康クラブにお見えになる方が
突然来られなくなるというのは、
病気かあるいは事故のケースが多かったので、
川下さんをはじめ、私も少し心配になってきました。

それから、三ヶ月ほどしたある日、
その方がひっこりとお見えになりました。

「随分お久しぶりですね。お元気でしたか。
みな何かあったのではと心配をしていたところでした」と川下さんが言うと、

「アメリカに行っていました」と笑顔を見せたのです。

そして、続けて、
「これからは週に一度こちらで本格的に
運動をさせていただきたいと思います。
それから、シャワーも使わせていただきたいのです」
と言うと、シャツをめくって背中を見せてくれました。

私も川下さんも思わず「あっ」と言葉が出てしまいました。
そこにあったはずの刺青がなくなっていました。

「アメリカで刺青を消してきました。
やけどのような跡になっていますけれども。
こちらの健康クラブは私の人生を変えました。

刺青を入れたことは今まで誇りにこそすれ、
後悔したことなどは一度もなかったのです。

それが、周りの方の真剣な姿や、
川下さんをはじめとするトレーナーのみなさんの温かい対応に、
考え方が変わりました。これからも運動をしていきたいと思います」

その男性は、それから週に一度、ルイス・ウオーカーで運動をしています。

鋭かった眼光はいつしか穏やかになり、
顔なじみの会員の方と談笑する姿はとてもその世界にいたとは見えません。

むくみぎみだった顔と目の下の隈もすっかりなくなり、
見るからに健康そうになりました。

私の考えのなかに
「環境が人を変える。しかし、その環境も人が作る」
というものがあります。

刺青の男性は健康クラブで運動をすることにより人生が変わりました。

人はそれまでの生き方がどうであれ、何かをきっかけに変わることができるのです。

(次回へ続く)

タイトルとURLをコピーしました