(29)『日本の健康産業の第一人者』田中恒豊さんが語る 人生の成功法則:バブル崩壊と健康産業

『日本の健康産業の第一人者』が語る 人生の成功法則

今回は、バブル崩壊後に、健康産業で何が起きたか、
また、自分のなかで大切にしていることを貫く生き方が、
結果としてプラスに働くことについて語っています。

バブルの崩壊が健康産業にもたらしたもの

昭和64年(1989年)、昭和天皇が崩御され、
時代は平成となりました。

その年12月29日の大納会で
日経平均株価が史上最高値の38,957円となりました。

「来年は今の株価はもっと上がり、
最終的には50,000円まではいくだろう」などと言われ、
この段階ではかなり多くの人がそのように考えていました。

私自身は前に述べたように
場外馬券場を運営していたこともありましたが、
この頃には投機的な動きに全く関心がなくなっていました。

株での儲け話を持ちかけられたりしましたが、一切お断りしていたのです。

年が明けてすぐに三井不動産から事務所に電話がありました。

「このお話はここだけにしていただきたいのですが、
日本は今空前の好景気に浮かれています。
でもこれはバブル景気というものです」

「バブル景気」という言葉は、
その当時は一般には使われておらず、崩壊してから
「あれがバブル景気というものだったのか」と皆が実感をしたのですが、
三井不動産はこの時すでに、
この好景気が偽物だということ、
そして近く崩壊することを予測していたのでした。

「日本の経済はこれから大混乱します。
不透明な時代がいつまで続くかは分かりませんので、
建物に付加価値を付ける計画は一時休止します。
三井不動産としては健康産業から
全て撤退をすることといたしました。
田中さんにはこれまでお世話になりましてありがとうございました」

突然の撤退宣言でした。
私としては言いたいことも色々とありましたが、
まず一番に心配になったのは、会員の方々のこれからです。

三井不動産が関係する健康クラブは全国に5カ所、
一万人近い会員の方がいたのです。

そして、「生涯運動を」と提唱しておきながら、
閉鎖をせざるを得なくなることに忸怩たる思いでいっぱいとなりました。

私が責任を持って会員の方の次の受け入れ先を探すしかないと考え、
会員の方には私が関係する他の健康クラブへの移行をお願いしましたが、
一度運動をする気持ちをそがれてしまった方々の気持ちを思うにつけ
非常に心が痛みました。

銀座の健康クラブの会員には、前回ご紹介したご夫婦
(お子さんが障害を持たれていたために
健康で長生きをすることを目指して、運動に励まれていた)
もおられたのです。

会員の方々へは、張り紙での告知をまず行い、
私自身の口から「申し訳ない」と正直に何度も説明と謝罪を述べました。

あるお客様からは
「事業を止めるという決断は企業ならば当然のこと。
田中社長が気に病むことはありませんよ」
となぐさめの言葉をいただきました。

多くの会員の方々が「仕方のないこと」
と理解をしてくださったのは不幸中の幸いでした。

トレーニングマシーンの行き先

会員の方々の次に心配になったのが、
トレーニングマシーンの行き先です。

「撤退されることは分かりましたが、
私が納品したトレーニングマシーンはどうされますか?」
と三井不動産の担当者に聞くと、
「全て処分します」との言葉。

この決定に私は愕然としました。

先に述べたようにパラマウント社の総代理店として就任する際に
「トレーニングマシーンを錆びさせません。磨耗するまで使います」
と宣言しているので、
まだまだ使える機械が300台近く捨てられてしまう
ということを知った以上放ってはおけません。

「処分されるのでしたら、私に任せていただけませんか?
マシーンの移送についてはご迷惑をかけるようなことはいたしません。
こちらで責任を持ちますので」

三井不動産も、私がどういういきさつで
パラマウント社の代理店となったのかを知ってたので、
理解をしてくれて、
全てのトレーニングマシーンを譲ってもらうこととなりました。

銀座、恵比寿、池袋、柏、札幌の5店舗で使われた
300台以上のマシーンを保管しておく倉庫を
何とかツテを頼って埼玉県郊外の工場跡地を見つけ、
運送会社を手配しました。

運送代や倉庫の借用料など、
お金がどんどん出て行きましたが、
これも自分の生き方を曲げないためには仕方がないとあきらめました。

トレーニングマシーンの売り先のあてもありません。
完全な不良在庫でしたのでこれには困りました。

それから一ヶ月後、
一件の電話がかかってきたのです。

それは慶応大学の運動部からでした。

どこで知ったのかトレーニングマシーンを譲って欲しいというのです。

大学ですから予算があるといっても限られていますので
「中古品でも良いので」という提案でした。

三井不動産で使っていたマシーンは
私の運営方針から毎日磨いていましたので新品同様です。

そうした事情やマシーンの質も慶応大学側は知っていたようです。

こちらもトレーニングマシーンの行き先に
困っていたところでしたから渡りに船と
お譲りすることにいたしました。

その後、食品会社がオーナーをしている
野球球団からも大口の注文があり、
中古でも良いので至急トレーニングマシーンが欲しいというので、
残っていたマシーンを全てお譲りしました。

結局、マシーンの保管に掛かった赤字は
一気に解消してしまい大きな黒字となったのでした。

捨てる神あれば拾う神ありだと思ったものです。

お金が儲かったことよりも、
捨てられてしまう運命のトレーニングマシーンが
新たな働き場所を得てくれたことがなによりうれしく、
パラマウント社の総代理店としての責任が果たせたように思いました。

(次回へ続く)

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