新規事業やイノベーションを創造するに当たり、
「市場の未決の課題」から、出発することが重要であると
多くの方が考えていると思います。
市場の未決の課題が明確になれば、悩んでいる顧客に対して、
解決策を提示することにつながり、
顧客の存在が明らかになっているところから事業展開を進めることが可能です。
今回は、「市場の未決の課題」をテーマに
Airbnb(エアビーアンドビー)の事例を考えてみます。
Airbnb(エアビーアンドビー)の事例では、
既存のホテル業界が解決できなかった、短期的な宿泊場所の手配を
スムーズに行うという未決の課題を解決しました。
一方で、既存の業界で大きな存在感を示してきた企業との対立が起きています。
この対立も、創造的破壊の印象が強く、
それだけイノベーションが、与える影響を感じさせるものとなっています。
また、全く新しい分野の事業を展開する際に、
法律的な整備が、事業に追いついてない場合に、
企業として、どのように対応するかについても大きなヒントとなる事例です。
次の章から見ていきましょう。
Airbnb(エアビーアンドビー)とは
Airbnb(エアビーアンドビー)は、
宿泊施設や、民間の宿泊施設を貸し出す人を対象に
ウェブサイトを通じたサービスを提供しています。
2008年に設立され、本社はサンフランシスコにあります。
いわゆる「民泊」を仲介するサービスです。
エアビーアンドビーは、もともとは、
米国でインダストリアルデザイン会議が開催された際に、
ホテルを予約することができない参加者向けに、
短期的な宿泊場所と朝食を提供するというところからスタートしています。
「ホテル予約ができない参加者がいる」という既存のホテル業界では解決できない
「市場の未決の課題」に対して、
「短期的に宿泊場所を提供したい」という人をウェブサイトでつなぐことで
解決を図ったという構図となります。
この事業をグローバルで展開し、
現在、世界192カ国の33,000の都市で80万以上の宿を提供しています。
エアビーアンドビーが、ビジネスとして優れている点は、
エアビーアンドビーそのものが宿泊場所という設備を持たず、
ネットで、宿泊場所の提供者と旅行者をつなぐことで収益を得ているところです。
「宿泊場所を提供するには、ホテルという設備がなければならない」
という固定概念を打ち破ったイノベーションの事例と言えます。
トラブルと、既存業界からの反撃、規制
その一方で、一時期日本でも「民泊」が近隣住民とのトラブルにつながった
ことからも分かるように、海外でも同様のトラブルが起きています。
また、既存のホテル業界からは、
ホテル産業そのものを崩壊させる破壊者だと、攻撃の対象となっています。
こうしたことから、政治も動くこととなり、
ニューヨーク州議会では、
「クラスA住宅地を30日未満の間、貸しに出すことは違法」という法律が
2010年7月に可決しています。
カナダのケベック州では、
エアビーアンドビーを通して家とアパートを貸す個人を対象に規制が行われています。
法律での規制は、既存のホテル業界からの陳情によるものだと考えられます。
イノベーションには、反発が起こる可能性があることもこの事例では示されているということです。
グレー制度を巧みに利用する
エアビーアンドビーは、こうした既存業界からの反撃に対して、
ロビイストや社会的責任活動を巧みに使って、
政府部門にアプローチし、市場を自社に有利な方向にもっていくことを行っています。
サンフランシスコで会社の成長を阻害する可能性のある法案に反対するために、
政府と交渉する有能なロビイストと800万ドルで契約しました。
さらに、400人のボランティアを動員して有権者の戸別訪問キャンベーンを展開しました。
こうしたグレーな活動の是非については、読者の方によって様々なご意見が
あることだと思います。
しかし、ひとつの見方としては、
自社を取り巻く状況が、法律的に追い付いていないという局面において、
あらゆる方向から改善に向けて努力する姿勢は、見習うべきだと捉えています。
実は、グレーな対応によって、自社の状況を有利に導くという活動は、
世界の経営学で最もホットな研究テーマのひとつとなっています。
裏を返せば、AI、IoTやネットも含めて、
技術の進歩が著しく、法的な側面が追い付いていないということの現れだと考えます。
クロネコヤマトに学ぶ
エアビーアンドビーのグレーな活動から、連想されるのは
クロネコヤマトの事例です。
クロネコヤマトは規制を打ち破って現在の地位を確立した企業です。
たとえば、宅急便のサイズについて、SサイズとMサイズに加えて
もう一回り小さいPサイズを作り展開を
1983年頃に、試みたことがありました。
しかし、当時の運輸省に打診すると、拒否されてしまいます。
交渉の末、運輸省は受理はしたものの許可を下ろしません。
そこで、マスコミを利用し、運輸省を動かすことを行いました。
新聞広告で「Pサイズについて1983年6月1日から発売します」と宣伝をします。
それでも動かない運輸省。
そこで、さらに5月31日に「運輸省が認可しないためにPサイズの発売は延期します」
と新聞広告を展開します。
その後、世論の後押しもあり、
運輸省もとうとうPサイズを許可することになりました。
正攻法でダメならば、別の方法で動かしていくことの重要性が
この事例からは学べます。
まとめ
エアビーアンドビーの事例は、創造的破壊行為だと捉えています。
結果的に既存業界の枠組みを壊して、新しい価値を生み出すことにつなげています。
現在、日本では民泊は好意的には受け止められていない側面もあります。
周囲の方でお困りの方もおられることだと懸念しています。
しかし、こうした困りごとが、
さらなる「市場の未決の課題」となるのかもしれないとも考えています。
ある日、よりスマートな破壊的イノベーションが起こり
エアビーアンドビーの仕組みが遅れているとされる時代がくるかもしれません。
本日も最後までお読みいただきましてありがとうございました。
追記
同様の事例としてウーバーについて下記で取り上げていますので、
是非ご一読くださいますようお願いいたします。
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