大学との共同研究を進める際の注意点:企業が課題を明示することが必要

講義室 イノベーション

近年、多くの企業で大学との共同研究が行われるようになりました。

経済産業省も産官学の共同研究を推進しており、
国として大学という知の集積地を有効活用し、
日本としての価値を生み出したいと考えています。

大学教授は、その道の専門家であり、
最新の研究にキャッチアップしているため味方となれば力強い存在であることは
間違いありません。

そうした先生方とタッグを組めば、何か新しいことができるのではないか、
自社のコア技術を活用してもらえば新しい価値が生み出せるのではないか、
と考える方も多いのではないでしょうか。

しかし、大学との共同研究は行ってみたものの、
想定していた「成果」が出てこないというケースも多く、
実際には苦労されている担当者の方も少なくありません。

今回は、大学との共同研究を行う際に、
企業側が気をつけなくてはいけないポイントについてお話ししたいと思います。

大学との「共同研究」では、企業が課題を明示することが必要

以前、理系の大学教授がこんなことを言っていました。

「先日、大手製造業の研究開発担当の社員さんが訪ねてきたのだが、
『当社が行うべき新規事業のアイデアを相談させてください』と言われて非常に困った。

実は以前も別の企業の担当者が訪ねてきて同じようなことを言われたことがあった。
しかし、なにをすべきかのアイデアを出してくれと言われても難しい」

ここから分かるのは、新規事業のアイデア、あるいは市場のニーズについて、
大学の教授に相談しても、期待している解答は得られない可能性が高いということです。
(成果につながらないということになります)

先の大学教授によると、企業に喜んで協力するのは、
「企業の目的意識がはっきりしており、たとえば技術的な課題についてに
 専門家の視点でヒントが欲しい」
といった場合だということでした。

自社だけでは解決が難しい課題に対して、研究の専門家としての外部の助けを借りる
というのが、大学との共同研究の本質となります。

逆に言えば、市場のニーズや、ニーズを前提とした新規事業のアイデアについては、
大学側よりも企業のほうが優位性があるということです。
市場を通じて得られるデータ類は、大学側にとっては極めて貴重なデータで、
それらを活用して、Win-Winの関係で、共同研究を進めていく必要があります。

整理をすると、

企業の役割として、目的をはっきりさせ、市場から見えた課題やデータを提示する。
大学側は、それを解決の具体策、あるいはヒントを提示する。

こうした意識が必要になるということです。

共同研究の成功事例

共同開発が成功した事例について、その進め方をご紹介します。

素材系企業K社は、材料Sが収益の柱となっているグローバル企業です。

素材Sは、日本国内はもちろん海外でもシェアが高く、
日常的に使われる製品に使われていることから、
今後もグローバルで消費の増加が見込めるというものでした。

しかし素材Sは扱いが難しく、
非常に高い温度でなければ合成ができないというものでした。

K社は、トップレベルの技術者たちが集まっていましたが、
低温合成は難しいと考えていました。

ある時に、H教授という方が、別の素材について、
画期的な方法で合成する手法を確立します。

そこで、K社の社員が、
H教授に、素材Sの低温合成について相談に行きました。

素材Sが低温合成できれば、
エネルギーの観点からさらなる競争優位性が見込まれると考えたためです。

H教授は、この課題に関心を持ち、
優先課題として取り組むこととなりました。

H教授は企業との共同研究にも慣れていたため、
知財関係の契約締結もスムーズに行われました。

そして数年後、H教授は素材Sの低温合成について、
実験段階では成功したのです。

その後、製造ラインの構築が、K社主導で行われ、
K社は素材Sにおける確固たる地位を今後も長期的に保持することにつながりました。

まとめ

パズルピース

共同研究を行ったからといって、
必ず全てがうまくいくというわけではありませんが、
企業が、目的意識をはっきりさせて、持っている市場のデータや知見
と、大学側の専門性がうまくマッチングできれば、
課題に対して解決の可能性が高くなります。

そのために、大学側に何を期待するのか、
企業としては何ができるのかの役割を切り分ける意識が必要です。

大学との共同研究には、
知財の問題や、競合が同じ研究の相談をしており情報流出してしまう、
人材の引き抜き、成果までに時間がかかる、などといった課題もありますが、
目的がはっきりとしていれば、契約の段階で、上記の危惧を契約書に盛り込むことで、
大きな問題を生じさせることなく進めていくことが可能です。

企業と大学の共同作業によって、イノベーションの確率は高まります。
企業側としては、目的意識を持って、大学との共同研究に臨む意識が重要となります。

本日も最後までお読みいただきましてありがとうございました。

追記

企業同士の連携の方法として、オープンイノベーションをお考えの方も
多いかと思います。下記の記事をご参考いただければ幸いです。

新規事業、イノベーションを成功に導くオープンイノベーションの使い方
新規事業やイノベーション創出の分野で、 ここ数年「オープンイノベーション」が注目されています。 「オープンイノベーション」は、 ハーバード大学経営大学院教授ヘンリー・チェスブロウによって 2003年に提唱された概念です。 自社だけでなく他社...

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