スエズ運河の座礁事故から学ぶスラック・レジリエンスの重要性

事業戦略

2021年3月23日、エジプトのスエズ運河において
コンテナ船の座礁事故が起こり、一時通航が全面停止しました。
(冒頭の写真は、スエズ運河とスエズ運河橋です)

幸い事故から6日後となる
3月29日には
コンテナ船の離礁が成功し、
スエズ運河の通航が再開されました。

4月3日には、待機していた全ての船舶が
通航したと発表されています。

スエズ運河の通航停止は、
物流関係に大きな影響を与えました。

新型コロナウイルスにより、
グローバルでの物流網の脆弱さが問題となっています。

これは必要な輸送費用の最適化が第一優先とされるなかで、
特定のルートがストップしてしまった際に保険的な
ルート構築まで手がつけられなかった企業の事情があります。

しかし、今後は物流網については、
複線の構築も含めて、ストップさせないことを第一として、
余裕のある(スラック、レジリエンスのある)状況を作るために
資金投入を行っていかざるを得ないと言えます。

今回は
スエズ運河の通航停止から、
スラック、レジリエンスのある
物流網の再構築を改めて考えみたいと思います。

スエズ運河とは

はじめに簡単にスエズ運河について説明します。

スエズ運河は、
地中海と紅海をスエズ地峡で結ぶ人口の水路です。
その歴史は、1869年まで遡ります。

スエズ運河が開通したことにより、
アフリカ大陸を回らずにヨーロッパとアジアが
つながることになりました。

これによって、
アラビア海からロンドンまでの航行距離は
約8,900km短縮することになるなど、
運行上の大きなメリットとなっています。

近年では、航行距離の短縮メリットだけではなく、
ソマリア沖の海賊を避けたり、
航行距離に比例して加算される保険料の低減を目的に
スエズ運河を通航する船舶が増加しているということでした。

スエズ運河通航停止による物流影響

3月23日から起きた
スエズ運河通航停止は、
すぐに米原油先物相場に反映されました。

2021年3月30日の段階で、
国際指標となる米国産標準油種(WTI)5月渡し
が前週末比0・59ドル高の1バレル=61・56ドル
と価格が上昇しています。

直接的な物流網への影響が出たと発表しているのは
イケアです。

挫傷した「エバーギブン」も含めて
コンテナ110個に製品が積まれていることを
公表しています。

このほか、自動車部品や木材、食品などが
スエズ運河通航停止の影響を受けました。

新型コロナウイルスの影響によって、
物流網が不安定となっていますが、
そこにさらにスエズ運河通航停止が重なり、
大きな打撃を受ることになりました。

サプライチェーンにおけるスラック・レジリエンスの必要性

今後の企業における大きな課題として
サプライチェーンの再構築があることは
冒頭に述べたとおりです。

これまでサプライチェーンは、
なるべく安くということが第一で考えられていました。

しかし、今回、材料、素材の流れが止まってしまうと
製造をすることができず、
製品ができあがっても、顧客に届けられないという事態が
起きてしまう可能性が見えてきました。

こうしたリスクを避けるためには、
物流コストは低減させることだけを目的とするのではなく、
安定を第一として、見直していくということが
必要になります。

難しいのは、物流が安定することそのものが
直接的な利益につながらないという点です。

しかし、物流の安定は、企業継続の要であることを
経営陣はもとより、
社員、そして株主にも理解してもらえるようにしながら、
コストはかけてでも安定的なサプライチェーンを
構築しなくてはいけません。

キーワードとなるのは「スラック、レジリエンス」で、
「余裕」の必要性となりますが、
輸送についてきつきつにするのではなく、
一部がストップしても、安定性が損なわれないように、
コストも含めて、弾力性がある状況を作り上げていく
ということになります。

シベリア鉄道の貨物実証輸送

貨物の輸送網について、近年新しい動きも出てきています。

たとえば、
2018年度からシベリア鉄道でパイロット事業(実証輸送)
がスタートしています。

シベリア鉄道は、
ロシア国内南部のシベリアとヨーロッパロシアを東西に横断する鉄道で、
全長は9,297km。世界一の長さを誇る鉄道です。

2020年11~12月に行われた実証輸送では、
コンテナ列車1編成すべてを日本発の貨物で埋めた
列車1編成貸切の貨物列車が運行しています。

このプロジェクトは国土交通省によるもので、
シベリア鉄道経由ヨーロッパ行きの鉄道貨物輸送が可能かを
実験するというものです。

シベリア鉄道を活用すると
所要日数は海路と比べて半分程度ということでした。

またコストについても国交省の試算では、
日本からモスクワへの物流でスエズ運河を経由した場合は
輸送コストは5500~10000ドル(所要日数53~62日)

シベリア鉄道ルートでは
輸送コストは4500~6000ドル(所要日数20~27日ということで
時間、コストの両面で大きなメリットがあるようです。

コストは試算ですので、今後大きく上昇する可能性がありますし、
また、これまでとは異なる物流網であるので、
スムーズな輸送体制が構築できるまでに、
表裏含めて様々なコストがかかってくると思います。

そうしたコストも含めて、メインとなる物流網ではないにしても、
活用を検討してく動きが必要だと考えています。

まとめ

スエズ運河通航停止から、
サプライチェーンを、利益第一ではなく
安定第一とし、コストをかけてでも、
運用していくことが重要です。

物流網では新しい動きとして
シベリア鉄道の活用といったものが
出ていることもご紹介いたしました。

また、もう一つの考え方として、
物流網が脆弱であるならば、
3Dプリンターを活用して、
製品を現地で製造してしまうという考え方があります。

実は、今回の新型コロナウイルスの影響で
物流網がストップし、
代替手段として3Dプリンターを活用した
アディプディブ・マニファクチャリングが
大きな効果を発揮しているケースがでてきています。

こちらについては、次回解説いたします。

本日も最後までお読みいただきましてありがとうございました。

タイトルとURLをコピーしました