現在「ムーンショット」という言葉に注目が集まっています。
「困難だが実現すれば大きなインパクトをもたらし、イノベーションを創出する壮大な計画」
という意味で、中期経営計画や企業のHPなどにも記載が見られるようになりました。
この言葉は、「アポロ計画」が元になっています。
アポロ計画は、
1961年から1972年にかけて実施されたNASAによる月への有人飛行計画です。
この事業により、人類は初めて有人飛行による月面着陸を成功させました。
人類史のなかでも代表的なイノベーティブな出来事と考えられます。
アポロ計画は、企業がイノベーティブな活動を行う際に、
どのような掛け声(あるいは経営計画)で、進めていくべきかの大きなヒントになります。
今回は「アポロ計画」からイノベーションの重要性を考えてみます。
ビジョン方向性を示した最高の例としての「アポロ計画」
アポロ計画がスタートしたのは、
米国の第35代大統領ジョン・F・ケネディが、
1961年に次の演説を行ったことからとなります。
「まず私は、今後10年以内に人間を月に着陸させ、
安全に地球に帰還させるという目標の達成に我が国民が取り組むべきと確信しています。
この期間のこの宇宙プロジェクト以上に、より強い印象を人類に残すものは存在せず、
長きにわたる宇宙探査史においてより重要となるものも存在しないことでしょう。
そして、このプロジェクト以上に完遂に困難を伴い費用を要するものもないでしょう」
この言葉は、「月へ行く」という大きな目標をイメージを含めてダイレクトに表現しています。
続く言葉が下記となります。
「我々が10年以内に月に行こうなどと決めたのは、それが容易だからではありません。
むしろ困難だからです。
この目標が、我々のもつ行動力や技術の最善といえるものを集結し
それがどれほどのものかを知るのに役立つこととなるからです。
その挑戦こそ、我々が受けて立つことを望み、先延ばしすることを望まないものだからです。
そして、これこそが、我々が勝ち取ろうと志すものであり、
我々以外にとってもそうだからです。」
困難な挑戦に真っ向から臨む姿勢と、人間の能力への深い信頼感が感じられます。
読むだけでも心が熱くなるのではないでしょうか。
「10年以内にアメリカは人間を月に送り、無事帰還させる」の言葉により、
NASAの現場の方は、宇宙飛行士が月面着陸している姿をイメージし、
ワクワクしながら、困難で、未知なる課題に取り組むことにつながりました。
また、「10年以内にアメリカは人間を月に送り、無事帰還させる」
の言葉の大きなポイントとして、
具体的に「このようにして……」ということは触れていない点が挙げられます。
ビジョンや方向性を指し示す際には、
大きな目標だけを明示して、具体的な方法は現場に任せる観点が重要です。
これは、たとえば具体的な方法については、現場で得られた知見や気付きが重要であり、
仮にビジョンや方向性のなかで具体的な方法を示してしまうと、
その方法の枠のなかで思考を進めてしまい、
より良い方法が見つかる可能性を低くしてしまうリスクがあるためです。
企業の将来に向けたビジョンを策定したり、グループ内の目標、方向性を
示す際にも、社員の方の心の導火線に火を付けるものを目指したいものです。
チャレンジし、イノベーションに取り組むことの重要性
ケネディ大統領の言葉からはじまったアポロ計画ですが、
人類として初めてとなる試みを多く、クリアしなければならない課題は
山積し、試験途中で人命が失われる事故まで起きています。
たとえば、1967年1月27日に起きた事故では、
発射台上での訓練中に司令船の火災事故が発生し、3名の飛行士が命を失っています。
こうした困難を乗り越えながら、1969年7月16日に
史上初の有人月面着陸を成功させました。
アポロ計画では、月面着陸を成功させるとともに、科学的・工学的な遺産、
文化的な遺産に結びついています。
たとえば科学的・工学的な遺産としては、
コンピュータ数値制御による機械工作が挙げられます。
また、現在、水素の利用で、新たに注目を集める燃料電池は
アポロ計画によって初めて実用化されました。
その後、アメリカはコンピューターの分野で世界のリーダー的な存在となりますが、
それもアポロ計画が先鞭をつけてくれたためと言えます。
また、現在につながる文化的な遺産としては、
環境問題への関心が世界中に広がっていった点が挙げられます。
アポロ11号が、月面からみた「宇宙に浮かぶ、あの小さな、青い地球像」
の写真を公開し、これは「地球は実は壊れやすい小さな星」
「国境はなく地球がひとつだ」という印象をビジュアルに強烈に残しました。
現在、環境問題は解決すべき課題として、カーボンニュートラルへの
取り組みが各国で行われています。
こうした意識の原点にアポロ計画の功績があるということです。
ここから見えてくるのは、新規事業やイノベーションに取り組むことで、
当初段階では予想していない結果につながるということです。
企業活動に限っていえば、たとえば
新たな知財登録につながる結果をもたらすことがあります。
そこからさらに新しい展開も見え、事業としての新たな柱の創出が実現するケースもあります。
このため、企業としては投資というリスクを負ってでも、とにかく
新規事業やイノベーションに取り組んでみるということが重要になります。
たとえ失敗したとしても副次的な財産につながる場合もあるため、
まず取り組んでみることが極めて重要となります。
取り組んでみなければ、予期せぬ結果も副次的財産も得ることができません。
なにはともあれ果敢に取り組んでいくことが、企業の持続性、次なる展開に向けた
重要なアクションであることは間違いありません。
まとめ
「アポロ計画」からイノベーションについて考えてみました。
ビジョンの大切さ、リスクを取って実行していくこと、
そしてその先に結果はどうあれ副次的な財産につながることを
ご説明いたしました。
新規事業やイノベーションに「取り組む」ことがなにより大切であることを
常日頃から忘れないようにしたいものです。
本日も最後までお読みいただきましてありがとうございました。
補足
イノベーションの必要性を物語る生物学の仮説として「赤の女王仮説」というものが
あります。ビジネスパーソンの方であれば、日々の活動にもご参考いただけると
思いますので、是非ご一読ください。
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