失敗事例で考える:先入観がイノベーションを阻害する(ルンバの事例から)

キーボード イノベーション

「イノベーション」は「技術革新」ではなく、「新結合」と定義されています。

「イノベーション」の本質は「技術の範囲に留まらず」、
「新しい価値を生み出すこと」となります。

「イノベーション」を「技術革新」と捉えてしまうと、
「新しい技術がなければならない」と無意識のうちに考えてしまい、
それが「ガラスの天井」となってしまいます。

イノベーション=技術といったように、
「こうあらねばならない」という「先入観」が
新しい価値創出を阻害しているケースが多々あるようです。
今回は「イノベーションと先入観」についてお話しします。

なぜ『ルンバ』は日本企業から商品化できなかったか

アメリカのiRobot社が開発、製品化した家庭用掃除ロボット『ルンバ』の事例から、
先入観について考えていきます。

ルンバは2002年に発売開始されました。
寝ている時や自宅にいない間に、
自動的に掃除を行ってくれるイノベーティブな商品として、
2012年までの10年間で累計800万台が売れた大ヒットしました。

一台約50,000円とすると、
4000億円という大きな売上につながっています。

横道に逸れますが、ルンバの価格が高いのは、
「おもちゃ」ではなく、高付加価値な商品だと、
「これまでこうした商品を見たことがないお客様にも伝える」ことを
視野に入れていると、米国本社の社長が言及しています。

このように、白物家電の掃除機ではなく、
「掃除用ロボット」というそれまでにはない、新しい市場を生み出したことも
イノベーションを起こした製品の代表例といえるのではないでしょうか。

その後、日本企業も『ルンバ』に追随する商品を発売し、
拭き掃除に特化した商品を出すなどの改善も行われました。
しかし、本家の人気、売上には遠くおよばないのが実情です。

ところで、ルンバの後塵を拝した日本企業ですが、
実は『ルンバ』よりも前に同様の製品開発に成功していました。

本家の『ルンバ』に勝るとも劣らない製品だったと言われています。

ところが試作品が完成した段階になって、
経営陣から開発ストップがかかります。

理由は「家の方が不在の折に、掃除ロボットが仏壇のロウソクを倒し、
火事になった場合、責任がとれないため」ということでした。

ここで大きな分かれ道だと捉えられるのは、
この企業では「ロウソクを倒さない」という課題を
「技術的な対応」で解決しようとしたという点です。

たとえば、温度センサーなどの利用が考えられたと推測されます。
試行錯誤をされたと思いますが、技術的な対応では
解決が難しいという結論に至り、開発中止という判断に至ったようでした。

技術的な安全策が万全に講じられていなければ、
発売できないという企業側の先入観も大きかったと考えれます。

しかし、「技術で解決する」という先入観がなかったら、
製品販売につながる解決策が見いだせたのではいでしょうか。

たとえば、「掃除ロボットがロウソクを倒す確率」を計算したうえで、
法務部、弁護士に解決策を相談し、保険会社と交渉のうえ火災リスクに対しては、
金銭保証で対応するとし、販売に踏み切る判断ができたかもしれません。

また、より顧客に近い別の部署の方が、全く異なる解決のアプローチに
たどり着く可能性もあります。

「技術で解決する」ことだけに囚われてしまうと、
最も大切な目的である「顧客に価値を提供する」ことから離れてしまうかもしれないのです。

まとめ

先入観はイノベーションの大敵であると述べました。

特にイノベーションにつながるような場面では、
これまで経験したことがない判断を迫られます。

判断をする際には、別の方法でのアプローチがないか、技術の枠に囚われていないか、
顧客価値を生み出すという目的から離れてしまっていないか、
頭の片隅で考えておくことが大切です。

最後までお読みいただきありがとうございました。

関連する記事

イノベーションの定義について、技術だけではないということを
シュンペーターの定義と、コンビニと運送業の事例を通じて解説しています。
ご参考いただければ幸いです。

イノベーションとは:イノベーションは「技術革新」ではなく「新結合」
「イノベーション」という言葉を聞くと、 多くの方が「新技術」「技術革新」と連想されないでしょうか。 しかし、本来のイノベーションという言葉は「新結合」を意味します。 実は、イノベーションは「技術である」という誤解が、 長年、日本企業にとって...

参考になる書籍の紹介

参考となる書籍としてご紹介する
「ルンバ」を作った男 コリン・アングル「共創力」
は、ルンバを開発したアイロボットの
CEOであるコルン・アングル氏の半生を描いた書籍です。

ルンバのようなイノベーティブな製品が生み出された背景には、
「人の役に立つロボットを作りたい」というアングル氏の
幼少期からの夢があり、
いくつもの挫折を経験しながら、アイロボット社を設立し、成功を収めていきます。

特に「共通善」の実現を目指して、仲間や他の企業と共創していくストーリーは、
顧客価値の本質とは何かを考えさせてくれます。


オンライン勉強会のご案内

参加費無料のオンライン勉強会(ポストコロナの質的環境変化を話す会)
を行っています。

コロナ禍での大きな環境変化について、
毎週金曜日20:00~22:00で
他社事例講演や幅広いテーマでの議論を行っています。

大手製造業の研究開発、新規事業の方を中心に
毎回15~20名の方が参加しています。

詳細、お申込みは下記をご参照ください。

ポストコロナの質的環境変化を話す会 | 価値共創研究会

タイトルとURLをコピーしました