M&Aを理解するための基本と、最も大切なポイント「目的意識をもつ」ということ

猫とチョウM&A

近年、M&Aを、事業戦略のなかに組み入れる企業が増えてきました。
以前はまれであったM&Aが、一般的な企業活動として認識されるようになってきています。

しかし、M&Aは、通常のビジネスと比べるとどうしても特殊な世界で、
それゆえに見えづらい部分が多々あり、失敗の危険が多く含まれています。

今回はM&Aの基本と、最も大切なポイントを解説していきたいと思います。

世の中で最も高額なのは企業

世の中で、一番高いものは何でしょうか。
「ビル」「土地」といった不動産が思い浮かぶかもしれません。

個人が購入するものとしては、不動産が最も高いものでしょう。

しかし、個人という枠を超えて考えたときに、
世の中で一番高いものは「企業」となります。

たとえば、日本企業が行ったM&Aでは2018年度の
武田薬品工業が、アイルランドの「シャイアー」社を買収した際の
金額は6兆8000億円と推定されています。

これは極端な例ですが、
「兆」の単位がつく取引となるのがM&Aの世界といえます。

多くのお金が動く分野ですから、失敗をすると母体企業の経営に
大きな影響を出しかねません。
買収の目的を強く意識して、しっかりと対応を進めることが必要となります。

実態を見えにくくする「のれん代」「シナジー」

しかし、巨額のお金が動く取引にも関わらず、
実態が見えないところが多分にあります。

その代表例が「のれん代」です。
「のれん代」は買われる会社の純資産額と
買収価格の差額として資産に計上されるものです。

たとえば、会社が持っている土地や工場設備など純資産として
計上される金額が200億だとします。

その会社が600億で買収されたとすると、
600億円-200億円で
400億が「のれん代」と認識されます。

「のれん代」というのは、
市場、ブランド、ステイクホルダー、これからの可能性
といった無形資産の価値に相当するのですが、
無形資産であるため、実態が見えにくいことに
つながっています。

実態が見えないもうひとつの例として
「シナジー」というものもあります。
自社が買収したことによって、被買収企業の価値を
上げることができる分も購入価格に乗せるという考え方です。

シナジーは、買収前に算定されるものですが、
合併してみて動いてみなければ分からない部分も多く、
算定した価値につながることはまれで、
「取らぬ狸の皮算用」になることがほとんどです。

企業の買収価格は、決まっているものでもなく、
当事者同士の交渉や、双方の納得のうえで決まっていくため、
交渉の中で値段がつりあがってしまったが、どうしても買収したいという場合、
「シナジー」「のれん代」となる理由を後付で探すといった
不幸な状況に陥ってしまうことも多々あります。

買収前と同等の価値創出ができるかの判断も難しい

またM&Aでよくある話が、買収先の企業経営者が、
買収後も同社で同じように働いてくれることを前提にディールを進めたところ、
買収後に、その経営者がパフォーマンスを全く発揮できずに、
後の担当者が大きな苦労をするというものがあります。

あるM&Aの具体的なケースをご紹介します。
研究畑出身のオーナー経営者がいました。
社員の信頼も厚く、事業もうまくいっていました。

高齢になったため、「これからは自分がやりたい研究開発に没頭したい」と、
売却を決意します。

買収希望企業はすぐに見つかりました。
トップが急に交代してしまうと経営の舵取りに課題が出てしまうと
想定されたために、オーナー経営者には
買収後も数年は、トップとして残ってもらうことが
条件として提示されました。

そして、ディールは成立。
経営者の手元には、数十億円のキャッシュが入りました。

すると、あれほどしたいといっていた研究開発も行わず、
経営についても急に関心を失ってしまいます。

企業を買収した会社の経営陣が、元オーナーに話を聞くと、

「ディール前に言った『今後も会社のためにがんばりたい』という
言葉には嘘ではなかった。
しかし、自分の手元にお金が実際に入って、
これから仕事をしなくても暮らしていけると思った時に、
急に気が抜けてしまった」

といって、結局、経営トップの座を退きました。

売り手の経営者が、「引き続き経営に努力する」と言っていたのに、
多額の現金を手にした途端に退職するというケースは特殊な例ではありません。

特に海外でオーナー系企業の売買の場合にはこうしたことは非常に多いのです。

多いケース故に、人事系コンサルタントが、
リテンションプランの立案することも当たり前のようになってきました。

契約として、個人オーナーへの
買収金額の支払いを5年の分割にすることや、
5年間、売上が向上すれば
さらにオプションで報いることなどが行われています。

このように、シナジー以前に、買収前と同じ価値創出が行えるかどうかも、
買収後になってみないことには分からない点があるということです。

M&Aを行う際に最も大切なことは目的意識

M&Aでは、不確実性の高い要素が多分にあり、
特に買収する側は、購入する前に、「このディールは何が目的であるか」を
はっきりとしておく必要があります。

たとえば、下記のような戦略です。
・今後の市場環境から、上位と競争するためにライバル企業を買収する必要がある
・自社製品のポートフォリオを考え、今後の成長戦略のために分野の異なる事業が必要である

M&Aでは、企業が売りに出されると、そうした機会は二度とないと
経営陣も担当者も考えがちです。

買収先の企業の価値算定につながるデューデリジェンスも大変な作業であることから
特に担当者の方は、ある段階まで関わってくると前のめりになってしまいます。

すると、買収の目的が忘れられて、買うことが目的となってしまいます。
買収を競争している会社などが出てくるような場合は、特にシナジーを言い訳に、
購入することを第一目標としてしまうので、極めて注意が必要です。

しかし、目的意識がはっきりしていれば、買収金額の上限、
買収後になにをどうすべきかが自ずと見えてくるため、
企業の成長戦略において強力な武器になることも事実です。

もし、M&Aにあまり慣れていないという企業あるいは、
ご担当者の方がM&Aを検討している場合は、
このM&Aが何を目標としているのかを見えるところに常に貼っておく
ことをお勧めします。

また、可能であれば、事業に大きな影響のない小規模のM&Aを進めることは
大きなメリットとなります。進め方のプロセスを一度経験しておくことで、
浮足立つことなく、冷静に粛々と進めることにつながり、
M&Aの成功へとつながります。

まとめ:

M&Aは、「のれん代」や「シナジー」あるいは買収先の状況に大きく左右されるといった
不確実性が多分にあります。

不確実なところに値段をつけなくてはいけないのが、
悩ましいところになりますが、企業を買収する目的はなにかということを
明確に持って、常に意識していおくことで、何をすべきかが見えてきます。

また、弁護士やM&A専門のコンサルタントなど、専門家の力を借りなくては、
進まない部分がありますが、
こうした専門家に相談する際にも、企業側として明確な目的意識を持っていなければ、
正しいアドバイスや助力につながらないため、注意しなくてはいけません。

本日も最後までお読みいただきましてありがとうございました。

補足

M&Aが失敗してしまう心理的な要因について次の記事で解説しています。
ご関心ある方はご参考いただければ幸いです。

M&Aを成功させるためのポイントと失敗の要因となる心理的背景
各社の中期経営計画において、 「新しい成長の柱」として、新規事業について明記されることが増えてきています。 このなかの新規事業は「M&Aも含む」と注意書きで付記されていることが多く、 M&Aも含めて、新規事業やイノベーションを考えるこ...

ご参考いただきたい書籍

M&Aについては、さまざまな書籍が出ていますが、
「M&Aがわかる(日経文庫)」が基本的なところをカバーしており、
特に初心者の方にはお薦めです。おおまかな進め方のイメージがつかめます。

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コメント

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