イノベーションというと、「ジレンマ」と連想する方も多いかもしれません。
それほど、クレイトン・クリステンセン教授の「イノベーションのジレンマ」は浸透しました。
日本でも書籍は大ベストセラーとなり、一時期バズワードとして扱われました。
本書の趣旨は、
ある一定の成功を収めている既存事業の企業は、
新しい技術の潮流や動きに気づいてるものの、
既存事業への影響を恐れて、経営の方向転換ができずに
イノベーティブな製品やサービスを提供できた新興企業の影響によって、
没落してしまうというものです。
このなかで最も重要なメッセージは、
「世の中の変化に気づいたら、旧来の価値に囚われずに
適切に対応する」と捉えられます。
そして、イノベーションを起こすことが、
企業の存続には欠かせない視点であることも述べられています。
(イノベーションを志向していなければ、他社からイノベーションが生み出された際に、
途端に苦境に立たされることを示しています。)
近年、技術や事業の展開スピードが速く、
変化が発生する確率が、以前と比べて格段に高くなっています。
そのため、新規事業やイノベーションを起こすことの
重要性も高まっていることを改めて述べていきます。
ハードディスクドライブで起こった価値の変化
技術や価値観の変化が生じた際に、
対応できないと没落してしまう事例として、
PCのハードディスクドライブを例に考えていきます。
現在のように薄型のPCが本格的に登場する以前、
PCがより、年々小さく、薄くなっていった時代がありました。
その際に、搭載されていたハードディスクドライブも
小型化が進められましたが、
大容量化の技術的進化スピードが遅かったために、
小型化すると記憶容量が落ちてしまうという状況となりました。
そうしたなかで、顧客側(PCメーカー)としては、PCの大きさが小さくなっているのだから、
それに合わせてハードディスクもドライブも小さくなってほしい、
という潜在的な欲求(価値観)が生まれてきました。
既存のハードディスクメーカーは、
記憶容量を優先させるとう名目で、既存事業を優先したため、
小型ドライブへの切り替えを行うことができませんでした。
顧客にとって価値観は、
「記憶容量が少なくなっても、小さいサイズのほうが良い」
というものに変化をしていきました。
そして記憶容量は少ないが小型のドライブが、
新興メーカーによって市場に出されたことにより、
それに対応できなかった既存の企業は大きなダメージを受けました。
顧客にとっての価値はなにか
この事例においては、既存のハードディスクメーカー側でも
顧客側の「記憶容量が少なくなっても、小さいサイズのほうが良い」
という変化に気づいていたと考えられます。
それでも、切り替えができなかったのは、
既存事業の製品(記憶容量が大きくサイズも大きい)の売り上げが順調に伸びていたため、
対応する(記憶容量が小さくサイズも小さい製品を市場に出す)と、
目下の売上が下がることが予想され、判断に踏み切れなかったためだと考えられます。
では「イノベーションのジレンマ」を避けるにはどうすれば良いでしょうか。
まず、次の二段階に分けて、対応準備していくことが考えられます。
最初の方策として「変化に気づくこと」、
次の方策として「変化に対応すること」の2つです。
まず変化に気づくこと
最初に自社を取り巻く状況の変化に気づくことがが必要となりますが、
「顧客にとっての価値」を常日頃から考えることがポイントとなります。
自社が現在行っている事業が、
顧客の何等かの課題に対して、解決策を十分に提示できているかを
意識していくことで、変化を捉えていくという考え方です。
この時、顧客に「どのような価値の変化がありますか?」とヒアリングしてみても、
その答えは、なかなか得られません。
顧客も変化を意識していない可能性が高いからです。
そこで、何か課題はないかという視点や、自社で提供している製品・サービスの
本質はなにかといった視点で、顧客の観察を行います。
こうすることで、変化にいち早く気づくことができ、
その変化に端を発した課題への解決方法も見えてくることになります。
変化に対応すること
次のフェイズでは変化に実際に対応していきます。
冒頭の事例でも述べたように変化に気づくことができていても、
既存事業に大きな影響を与える場合、
その対応への決断ができないというケースがあります。
これをいかに解決していくかについては、下記の方法が示されています。
1)既存顧客の声に耳を傾けない
2)小規模な組織に任せる
3)小さく始めて、試行錯誤を繰り返す
4)既存事業のプロセスや価値基準を適用しない
5)新しい特徴が評価される市場を見つける
しかし、既存事業にマイナスの影響を与えたとしても、
新しい製品やサービスを展開していくという決断は、
非常に難しいものです。
現実的な対応としては、
3)小さく始めて、試行錯誤を繰り返す
といったピボット戦略を取りながら、時代の変化を意識しながら、
状況を少しずつでも整えていくというのが、有効だと考えます。
まとめ
「イノベーションのジレンマ」への対応について、
述べてきましたが、実際に対処していくには難しい問題です。
ただ、一定以上の企業の場合、この「イノベーションのジレンマ」の問題に、
対応できるか否かが、今後のテクノロジーーの進化が激しい時代には、
生き残れるかどうかの分かれ目となるでしょう。
日本企業の方々には、
なんとかこの問題にうまく対処していただき、
変化の激しい時代を生き抜いていただきたいと思っています。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
補足
変化への対応の必要性については下記の記事も是非ご参考ください。
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