ポストコロナ時代の経営課題:サプライチェーンにおける「レジリエンス、スラック>経営効率」

ポストコロナ

新型コロナウイルスの影響により見えてきた企業の課題として、
「グローバルサプライチェーンが考えられていた以上に脆弱であった」
というものがあります。

特に製造業においては、部品の多くが中国に依存していたため、
今回、武漢周辺の工場がストップしたことによって、
自社製品の製造に大きな問題が生じたケースが多く見られました。

大きなサプライチェーンの一部もしくは複数が
止まってしまうと、代替対応ができずに、
結果的に事業がストップしてしまうことが起きているのです。

こうした状況が見えてきたことで、対策として、
注目を集めているキーワードとして「レジリエンス」や「スラック」
があります。

次の章から見ていきましょう。

レジリエンス、スラックとは何か

「レジリエンス(resilience)」という言葉は、
「弾力」「復元力」といった意味です。

これまでどちらかというと、心理学の観点から、
人間一人ひとりの精神的な回復しやすさ
という意味合いで使われていました。

大きなストレスを受けた際に、回復していく人と
そうではない人では「レジリエンスに差がある」といった
文脈で使われていたのです。

それが、組織や経営の分野でも使われるようになり、
「環境変化、状況変化に対応する力」
という意味合いで用いられるようになりました。

もうひとつの
「スラック(slack)」という言葉は、
「ゆるみ」「たるみ」「余裕」という意味です。

こちらは、従業員の人数や生産設備、在庫などといった
経営資源で余剰となっているものを示す言葉でした。

レジリエンスの意味の変化

「レジリエンス」が広く知られるようになったのは
2013年冬に行われたダボス会議からのことです。

各国の国力評価についての指標のひとつとして、
「レジリエンス」が取り上げられていました。

この時のレジリエンスのニュアンスとしては、

外的変化によって、想定外の問題が発生し、
企業や個人がそれによって大きなダメージを受けた際に、
変化に対応して、ダメージを抑えて、さらなる成長につなげる

といった意味合いでした。

そして、2013年頃の段階で、企業や個人が
レジリエンスを高める方法としては、
下記の3つを意識して、うまくいくようにすると良い
ということが紹介されていました。

「感情面:社員のやる気」
「社内外の人間関係」
「知識、知見:社員の知見や知識が、組織としてうまく活かせているか」

ここからお分かりのように、
2013年頃は、社内の構造、
もしくは社員一人ひとりにおけるレジリエンスに注目が集まっていたのです。

それが現在、意味の範囲が大きく広がり、
グローバルサプライチェーンの再構築に伴う
経営の本質的な課題を表す言葉に変化をしてきました。

スラックの意味の変化

「スラック」について、これまで経営の世界では、
「ゆるみ」「たるみ」という言葉で翻訳がなされてきました。
ニュアンスとして、マイナスの意味合いが多く含まれていたのです。

「ゆるみ」「たるみ」ということで、具体的には
従業員の余剰人員や過剰な生産設備、在庫などといった
経営資源で余剰となっているものを主に意味していました。

その余剰を合理化によりカットすることで
さらなる収益につなげられると理解されていたために、
スラックは経営的にはマイナスの色合いが濃かったのです。

スラックの別の側面が注目されるようになったのは
2011年の東北大震災の後頃のことです。

この時には、在庫がないことが大きな課題となりました。
震災の影響により、サプライチェーンが分断されました。

合理化により材料、製品などの在庫が手元になかったことで、
企業活動に支障が生じたたのです。

そして、ある程度の在庫を保つ必要があるのではないか、と議論がされ、
スラックという言葉も「余裕」という意味で注目を集めたのです。

それまで、企業としては、経営の合理性のみの観点から
「在庫は悪」と考えられていました。

「罪庫」という言葉まででき、調達部門や営業部門は
いかにこれを減らすかで苦心していました。

しかし、震災の影響から、在庫は減らせば良いという
単純な話ではないことが見えたということです。

ここからさらに、コロナウイルスの影響からの教訓により、
グローバルサプライチェーンにおいても
一見、経営合理性から考えると無駄と思われるものが、
必要(スラックの必要性)が改めて指摘されるようになっています。

レジリエンスやスラックの必要性

今後の企業課題として、レジリエンスやスラックが
必要であることは、今回のコロナウイルスの影響で
多くのビジネスパーソンがお感じになられたことだと思います。

具体的にレジリエンスやスラックを
サプライチェーンのなかで持つためには、
たとえば、製造拠点について、人件費や輸出入のスムーズさといった
合理性の観点とは全くことなる地域にも、
予備的に持っておくといったことが必要となります。

これは企業経営の根幹を、改めて考え直す必要があり、
経営の意識を180度転換しなければいけない場面もでてくると考えています。

レジリエンスやスラックを持つということは、
投資効果がないけれども、事業継続性を考えたときに
出資をしなくてはいけないという難しい判断が求められるからです。

投資効果がないところに投資をすることは
株主からの批判が出ることも予想され、
これに対して、納得をさせなくてはいけない、
あるいは納得してもらえる株主だけにしていく
といった対応が必要になってきます。

この問題への対処法は下記の次で解説しています。

本日も最後までお読みいただきましてありがとうございました。

補足

レジリエンス、スラックを経営に組み入れる具体的なポイントについては
下記で解説いたしました。ご参考いただければ幸いです。

レジリエンス、スラックを経営に組み込む際のポイント
前回はコロナウイルスの影響から見えてきた 「グローバルサプライチェーンの脆弱」さを述べました。 今後の経営課題としてレジリエンスやスラックといった、 何らかの問題に対応できる「柔軟性」「余裕」といったものを サプライチェーンなどに組み込んで...

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