技術開発や製品開発を進めるなかで、研究開発に着手してから、量産化あるいは、
事業の柱となるまでには、どのような分野であっても長い年月がかかります。
しかし、近年、株主が大きな発言権をもっている企業や
経営陣の任期が短いという場合、短期的な収益性を求める傾向があり、
長期的な視点での研究開発投資が難しくなってきているという問題があります。
今回は、長期的な視点での研究開発投資の重要性とそれを進めていくためには、
どのような方策があるかについて考えていきます。
研究開発着手から事業の柱となるまでの年数は10年以上かかる
研究開発の着手から量産化、または売上数億円規模までの期間の目安として、
下記をご参考ください。
・「旭化成:リチウムイオン二次電池」15年
・「日東電工:逆浸透膜」10年
これらは、その会社の事業の柱となっていますが、
かかっている年数からお分かりのように事業の柱は、少なくとも10年以上かかっており、
文字通り一朝一夕にはできないものです。
裏を返せば、すぐに実現できないことが、
競争優位性につながることの現れとも言えます。
たとえば上記の東レの炭素繊維は、一時期、開発の中止の判断も行われています。
それでも、収益化までこぎつけるまで続いてきたのは、
現場のご担当者の方や、研究開発所の上位層の方に
「なんとか研究を続けたい」という強い思いがあり、
それが功を奏して、現在同社の大きな柱の事業となっています。
ご担当者の方ご本人に「続けたい」という気持ちがあり、
周囲もそれを応援したい、理解したいという状況であれば、
続けていくことが、結果的に収益につながる可能性を高めると考えています。
研究開発投資を売上比率の「パーセント」で進めることの重要性
長期的な研究開発を実現するための方策として
まず、研究開発投資について、
売上比率の「パーセント」での計算で進めていくことが重要となります。
毎年「いくら」という観点で進めている場合、業績が一時的にダウンしてしまうと、
研究開発費が大きく削られてしまい、長期的な研究開発投資が
ストップしてしまう可能性が出てきます。
売上比率で、ある程度固めておけば、
CTOや研究所長の判断で細々とでも続けていくことができます。
もちろん、あまりに長期間明らかに成果につながらない研究については、
ストップの判断をする必要がありますが、
ストップと判断する際にも、これまでの研究データを
会社の資産として残しておくことが重要です。
後年になって、社会状況に変化があった際に、
失敗と判断された研究成果が、新製品への生まれ変わったというケースが多々あるためです。
しかし、将来的な展望の光が少しでも見えている研究については、
細々とでも続けていくことが重要だと考えています。
ブートレッキングを許容する社内風土構築の重要性
また、「ブートレッキング=密造酒作り」という考え方があります。
「ブートレッキング=密造酒作り」
経営判断で中止となった研究でも、勤務時間終了後に会社の設備を使って
密かに研究を進めること。3Mの不文律として有名。
結果が出せずにストップとなった案件でも、本人の意思によって研究を続けますが、
上司はこの場合、研究が続いていることを「見て見ぬふり」をします。
こうして研究を続けることによって、
新しい価値を生み出すことにつなげていくという考え方です。
3Mでは不文律とされていますが、この点も重要で、
研究開発について、続けていくことを許容する企業風土がある
ということが、長期的な研究開発を可能とすることにつながっています。
細々とでも研究が難しい場合は、情報収集だけでも続ける
細々とでも研究が難しい場合は、
情報収集やステイクホルダーとの関係性の維持を行います。
たとえば、研究をすすめる過程でつながりができた関係者と、
定期的に意見交換会(オンラインでも)を開催したり、
あるいは飲み会を設定するだけでも、情報収集につながり、
別の形でのイノベーションにつながる可能性も高くなります。
双方の情報を交換するなかで、
会社が中止判断をした時とは、異なる条件がぱっと見いだせる場合もあるからです。
まとめ
長期的な研究開発は、企業にとっての
競争優位性を創出する観点から重要となります。
そのため、企業側としてもあるいは個人の担当者としても、
研究を続けていくことに価値があることを念頭に置いて、
様々な工夫のなかで続けていくことが重要となります。
現在、時代の変化や技術の発展スピードが以前と比べて非常に早くなっています。
そうした状況のなかでは、昨日は評価されなかった技術が今日になって評価されたり、
技術的な問題でストップしていた研究が、新しい技術の登場によって、
一気に進むといったケースが出てきています。
長期的な研究開発の重要性をもう一度考えて、
企業における今後の新しい価値創出につなげていくことが重要です。
補足
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