「イノベーション」と「インベンション」の違いを認識する

ひらめきからアイデアへ イノベーション

2019年にノーベル化学賞受賞された
旭化成名誉フェローの吉野彰さんが、
2019年12月11日にストックホルムで記念講演をされました。

吉野さんはリチウムイオン電池を開発した功績により、
ノーベル賞化学賞を受賞しています。

受賞記念講演の様子を、NHKのニュース番組で拝見したのですが、
講演のなかで「イノベーション」という言葉を何度も使われていました。

驚いたことは、NHKの日本語訳の字幕で、
「イノベーション」を「技術革新」と翻訳していたことです。

今回の吉野さんの講演のNHKによる誤訳からも、
まだまだ「イノベーション」=「技術革新」の誤解が
根強く残っていることも感じました。

「イノベーション」は「技術革新」ではなく「新結合」と捉えることが必要です。
「新結合」は新しい組み合わせによる価値創出を意味しています

イノベーションとは:イノベーションは「技術革新」ではなく「新結合」
「イノベーション」という言葉を聞くと、 多くの方が「新技術」「技術革新」と連想されないでしょうか。 しかし、本来のイノベーションという言葉は「新結合」を意味します。 実は、イノベーションは「技術である」という誤解が、 長年、日本企業にとって...

技術だけの視点に囚われてしまうと、解決できる課題の範囲が狭まってしまいます。

日本企業では長年、「イノベーションは技術」という意識が「ガラスの天井」となって
新しい価値創造を阻害してきたと考えられています。

また、イノベーションという言葉について、
インベンションと混同してしまっているケースがありますが、
切り分けをすることでイノベーションの本質が見えてきます。

今回は、「イノベーション」を「インベンション」と詳しく比較することで
イノベーションの本質を解説していきます。

「イノベーター」と「インベンター」を比較することで見えてくる違い

イノベーションが技術革新と誤解されているひとつの背景として、
イノベーションとインベンションが混同されているということがあるようです。

「インベンション」は「発明」という意味です。
確かに発明には新しい技術が必要となりますし、
新たな価値を創造していることからも、
誤解している「イノベーション=技術革新」と近い意味合いと
捉えることができます。

ここで少し違う視点で考えてみます。

「イノベーター」と「インベンター」という言葉を比べた時に
印象はどう変わるでしょうか。

・「イノベーター」は「イノベーションを起こす人」。
・「インベンター」は「発明家」。

感覚的に、2つの違いがご理解いただけるのではないでしょうか。

次に「イノベーター」と「インベンター」で
それぞれ「連想する人物」を考えてみます。

「イノベーター」で「連想する人物」

「イノベーター(=イノベーションを起こす人)」
と言われて、すぐに思い浮かぶ人物はどなたでしょうか。

まず、「スティーブ・ジョブズ」を思い浮かべる方も多いかと思います。
テスラやスペースエックスの「イーロン・マスク」を連想されたかもしれません。

日本人であれば、
ソニーの「盛田昭夫」さんや、2ちゃんねるの「ひろゆき」さんを思い浮かべるかもしれません。

「インベンター」で「連想する人物」

では「インベンター(=発明家)」ではどうでしょうか。

飛行機を発明した「ライト兄弟」、あるいは
「ドクター中松」さんと思い浮かべる方もいるかもしれません。

ソニーの「井深大」さんや、うまみ成分の発見者である「池田菊苗」教授も
発明家として著名です。

こうした人物の特徴的なイメージから
「イノベーター」と「インベンター」の違いを考えてみます。

「インベンター」は、新しい発明を行った人物で、
発明そのものや発見が評価されています。

一方「イノベーター」は、必ずしも技術一辺倒ではなく、
既存の技術やサービスを組み合わせて、新しい価値や事業につなげていると考えられます。
また、手掛けたものが社会実装されていることも特徴でしょう。

「イノベーター」と「インベンター」の両方にまたがる人物

まれに「イノベーター」と「インベンター」の2つの領域に、
またがって活躍する人もいます。

たとえばトーマス・エジソンです。

「発明王」という敬称があることから「インベンター」のようにも思えますが、
「イノベーター」といわれても違和感がありません。

それは「白熱電球」を社会実装し、事業にまで展開していたことが
良く知られているからと捉えています。

エジソンは白熱電球の発明を
「時間を増やす発明だ」と説明しています。

夜の暗い時間は、それまで「寝る時間」でした。
白熱電球が登場したおかげで、
家事をしたり、本を読んだり、編み物をしたりできるようになったわけです。

白熱電球を「明かりを灯す」という機能を説明するのではなく
「時間を増やす」という一段上の概念で説明していることからも、
「発明」だけに限定されるのではなく、社会に新しい価値をもたらすことを
念頭に活動していることが分かります。

エジソンは「インベンター」であり、「イノベーター」でもあると
捉えることができます。

「イノベーター」と「インベンター」の2つの領域があり、
重なり合ったところにエジソンはプロットされるということです。

まとめ

「インベンター」は、新しい発明を行った人物。
「インベンション」は発明や発見と定義できます。

「イノベーター」は「新結合により新しい価値を生み出し、
事業に展開した人物」。「イノベーション」は新結合による価値創出と定義できます。

「インベンター」と「イノベーター」は
いずれかが優れていて、もう一方が劣っているということではありません。

企業や個人の置かれている局面で、どちらの人材や能力が
必要になるが変わってくるからです。

しかし、現代においては、
「社会的には」イノベーターが求められていると感じています。

物質面には世の中が満たされていく一方で、
これまでとは異なる、体験的な分野やあるいはサービス分野で
新しい価値提供が求められており、
その場合は、イノベーターのほうが活躍できる可能性が高いと考えられるからです。

「イノベーション」は、
個人が感じている課題や気づきからスタートするケースも多くあります。

自分で気が付いた社会的な課題に取り組んでみようという方が増えれば、
それだけ社会課題を解決できる可能性が高くなります。

そのため、冒頭で説明したように
「イノベーター」は技術の枠だけに囚われないように
「イノベーション」を「新結合」と捉えていただきたいのです。

こうした気付きは、新規事業開発ご担当の方や研究開発の方だけではなく、
多くのビジネスパーソンの方にご関心いただくことで、
社会課題の解決のきっかけとなると考えています。

役職を問わず、是非、イノベーションに関心を持っていただければ幸いです。

最後までお読みいただきましてありがとうございました。

追記

多くの企業で新規事業やイノベーションを生み出す仕組みとして
ステージゲート法を活用されています。下記の記事で詳細を紹介するとともに、
問題点とその解決方法もまとめています。

ステージゲート法の進め方(1):新規事業創出を成功させるポイント
現在、多くの企業で、 新規事業創出のために「ステージゲート法」が導入されています。 「ステージゲート法」はある一定以上の規模の企業で、特に研究開発の場面で、 新規事業をマネジメントする手法としては、非常に有効で、 成果につなげている企業も多...

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