新型コロナウイルスの影響に対して、
これまで企業は様々な対応を行ってきました。
特に2020年4月以降の半年の間では、在宅勤務への対応といった
社員の直接的な働き方の部分に力が入れられてきましたが、
そうした対応も一巡し、慣れてきたという面もあります。
今後、なにがしらかの影響によって、出社が難しい状況となったとしても、
自宅勤務を社会全体が経験を重ねられたことから、
ある程度柔軟な対応ができる可能性が高くなっています。
その一方で、根本的な対応を視野に入れた動きも出てきています。
これまでも、リスクとして指摘されていたものの、
目の前の業務対応に追われる日々のなかで、
対応が後回しにされてきた課題への取り組みについて、
この機会に対応する企業が増えてきています。
その代表的な取り組みが「サプライチェーンの再構築」です。
今回の新型コロナウイルスの影響により、
サプライチェーンが、実は脆弱であった面が見えてきました。
たとえば、原材料や部品について、海外での生産が主体であったため、
国境を超えるサプライチェーンが寸断され、
生産を行えないというケースがありました。
最も典型的なケースは、マスクや医療用防護服の事例です。
これらの製品そのものや、製造に必要となる不織布などについて、
世界各国が輸出規制を行ったため、
日本では最終製品が不足し、一時社会問題となりました。
今後、こうしたことを繰り返さないために、
また、株主からリスク回避に重点を置く視点が経営に求められるために、
企業は対応をしていかなくてはいけません。
今回は多くの企業で、現在取り組みが行われている
「サプライチェーンの再構築」についての
4つのアプローチと、さらにその先にあるオープンプラットフォーム
についても視野に入れながら、考えてみます。
生産拠点の日本回帰の動き
今回の新型コロナウイルスの影響により、
素材や部品について、海外における生産拠点や協力会社、関係会社が、
サプライチェーンとしての役割を果たせないという事態が起こりました。
特に、中国で部品調達に依存していた企業は、
部品の調達ができず、生産停止に陥ったところもありました。
こうしたことから、対策としてすぐに連想するのは、
「生産拠点の海外から日本国内への回帰」の動きでしょう。
たとえば、冒頭で紹介した「マスク」ということでいえば、
アイリスオーヤマが、国内に新たな生産拠点を設けて、
生産活動を行っています。
また、半導体関連製品のロームでも
半導体生産のチップに関連部材を取り付ける後工程について、
2021年には日本で生産ラインを立ち上げて稼働されるとしています。
パイオニアにおいても、日本向けのOEM製品の生産工程を
海外から、日本に戻すことを方針として打ち出しています。
サプライチェーン再構築の4つのアプローチ
生産拠点を日本に回帰させて、そこから十分な利益を生み出すことができれば、
それは望ましい形だと言えます。
しかし、業種、業態、生産している製品によっては、
国内回帰だけの方策は現実的ではなく、海外を組み入れないことには実現が難しいという
ことも多々あります。
こうしたことも考慮に入れる(国内回帰も手法として含める)と、
サプライチェーンの再構築については
以下4つのアプローチが考えられます。
2)生産ラインの複線化
3)生産、販売などの事業拠点のグローバルでの地域分散化
4)各拠点における、その地域内でのサプライチェーンの完結
(国内回帰を含む)
すでに「1)国内、海外拠点における部品も含めた在庫の積み増し」については、
多くの企業で行われています。
2020年4月、5月段階で、最終製品の販売量は落ちていたにも関わらず、
部品や、素材といった中間素材の売上が、多くの企業で落ちなかったことからも
こうした動きがあったことが明らかになっています。
しかし、在庫での対応は、グローバルでのリスク同時多発や
問題が長期化した場合は限界があります。
そこで、「2)生産ラインの複線化」および
「3)生産、販売などの事業拠点のグローバルでの地域分散化」も含めて、
サプライチェーンを強化する必要が見えてきており、
同時に「4)各拠点における、その地域内でのサプライチェーンの完結」についても、
一部国内回帰も含めて検討していくことになると考えられます。
これらに加えて、
以前ご紹介した「スラック」や「レジリエンス」といった
余裕のある対応の必要性も、加味しておく必要があり、
複雑な要素を整理しながら進めていく必要がでてきます。
特に難しいのは、具体的に上記の1)~4)について、
どの程度の深さまで進め、組み合わせていくかという点について、
業種や業態、また企業にとって想定するリスクの大きい小さい(許容度も含む)もあり、
「個々の企業が、前例に囚われずに対応していなかなければならない」
というところです。
個別ケースの色彩が強く、
どこかの企業が「こうしたからそれに習う」といったことでは、
有事の際に役に立たない結果となる可能性が高いためです。
1つひとつの企業が、自社であれば、どうするかということを、
自社の経営方針や価値観に照らし合わせながら、進める必要が出てきます。
この意味では、自社のあるべき姿や
経営方針といった企業の根幹に当たる部分が問われる
ことになると考えています。
オープンプラットフォームを考慮する
上記の1)~4)を進めていくなかで、生産拠点の稼働状況や、在庫といったものを
グローバルでリアルタイムに把握する対応も1つの手段として考えていく必要があります。
電子タグやセンサー、ソフトウェアを活用し、
サプライチェーンの高度管理を進めていくことが必要です。
さらに、今後の目標となりますが、
いずれ、特定の素材や部品について、
業種、業態の垣根を超えたオープンプラットフォームの
議論が遠からず出てきます。
今後、オープンプラットフォームが実装されるに当たっては、
当然、主導権争いが起こることになると思われます。
しかし、誰が主導権を握るかということを静観し、
決着がついた段階で、そのオープンプラットフォームに
加入する行動を行った場合、
「すでに時遅し」となり、対応の遅れにつながる危険性があります。
そのため、オープンプラットフォームの議論が
業界あるいは、隣接業界で起きた場合、
早い段階からキャッチアップして、早い段階で、覚悟を決めて、
参加をしていくことが必要となります。
この判断は、企業姿勢を突きつけられる形となるため、
厳しい面がありますが、ここをクリアしなくては
企業として、次のステップに進むことができない時代になると想定されます。
この準備を今から行うことが重要で、
そのための第一歩として、自社の業界、そして
横の業界における、サプライチェーンの情報を
公開情報程度でも良いので、集めておくことが重要です。
まとめ
今後、サプライチェーンの再構築は、
極めて大きな企業課題となってきます。
現段階でできるサプライチェーンの再構築の方策は、
上記に示した1)~4)があります。
そこにさらに、スラックやレジリエンスを意識しておく
必要があります。
また今後、オープンプラットフォームの議論が
業界の垣根を超えて出てくる可能性が高いと考えています。
そこに乗り遅れると、企業として厳しい立場に立たされるため、
現在から、こうした情報を集めておくことが重要となります。
こうした課題は、「まだ先」と思っていると、
その流れが一気に来た時に対応ができないものですので、
今からのご準備を進めたほうが良いかもしれません。
本日も最後までお読みいただきましてありがとうございました。