異業種への出向のストレスを考える

ポストコロナ

新型コロナウイルスが、企業業績に与えたダメージの大きさが
具体的に明らかになってきました。

2020年4~6月期の決算が発表され、その影響の大きさを特に
感じさせたのが交通機関系、旅行業、飲食業の3業種です。

JR東日本は営業損益は2952億円の赤字。
JR西日本は、最終損益が767億円の赤字。
JALは、連結最終損益は2300億円前後の赤字。
ANAでは、最終赤字5100億円。
JTBは、16億円の黒字ですが、ギリギリといったところ。
HISは、連結最終損益が318億円の赤字。
外食産業は平均して、7割の企業が赤字。

という発表がありました。

こうした状況を受けて、
雇用の維持が難しいと判断した一部企業では、
別業種への出向対応を行っているケースがあります。

たとえば、
JALでは、グループ社員約500人を一時的に
グループ外企業に出向や派遣しています。
受け入れ先はヤマトホールディングスグループなど
大手物流会社や自治体、教育機関など10以上の企業や団体ということでした。
KDDIでも、ANAやJALの社員の出向を受け入れる方針を明らかにしています。

居酒屋のワタミでも、スーパーマーケットへの従業員派遣を
行うということが話題となりました。

別業種への出向をお願いする経営の立場としては、
忸怩たる思いを持たれていると推察されます。

一方で、出向を命じられる社員の方々の立場としても、
大きなストレスがかかることは間違いなく、
この部分に対してのフォロー対応が必要だと考えています。

今回は、従事していた業務が急に変わることに対して
かかってくるストレスとその対応を考えてみたいと思います。

「異動」と「転職」の違いから、「他の企業への出向」ストレスを考える

大きな企業では、部署異動が、
「転職」に近い影響を発揮する場合があります。

業務内容が変わり、人間関係が変わり、勤務地も変わるという
ケースが多いため、「心機一転」となるわけです。

しかし、ここで「他の企業への出向」を念頭に
「転職」と「部署異動」の違いについて、
考えみると、近いようでストレスのかかり具合には
大きな差があることが見えてきます。

部署異動の場合は、人間関係ががらりと変わりますが、
「知っている人」「見たことがある人」がいます。
あるいは、別の方を通じて、自分のことを知っている人がいたり、
共通の知人の存在があると思います。

また、異動先についての情報を事前に知人を介して得られたり、
異動先で問題が生じても、以前の部署の関係者に
アドバイスを求めることも可能です。

一方で、「転職」「他の企業への出向」の場合、
基本的に知り合いはおらず、自分のことを知っている人もいません。

情報についても、公開情報がメインとなり、
なんらかの問題が起きても、頼る相手もいないのです。

それから、客観的に見るとそれほどでもないと思いますが、
本人として、ボディブローのように効いてくるのが、
PCのシステムや、勤怠管理、経費申請といった日常作業の違いです。

当然ですが、異動の場合は、これらは、
以前の部署でもある程度共通のものを使っていますので、
この点についてのストレスはほぼありません。

しかし、転職、出向においては、こうしたことも
イチから習得しなくてはいけません。

大げさだと思われるかもしれませんが、本人の意識としては
「こんなことも人に聞かなくては分からない」と
少なからず感じます。

それが、自己否定の意識につながってしまうことがあるため、
こうした「ちょっとしたこと」が
メンタルに大きな影響を与えるという認識を
多くの方に持っていただいたほうが、良いと思います。

冒頭に、JALやANA、あるいは居酒屋チェーンから
異業種への出向について触れましたが、
出向を命じられる社員サイドとしては、
現実的には大きなストレスがかかっているのです。

出向という形ですので、自分のキャリアをどう考えればよいのか、
不安もあるなかで、
慣れない仕事を行うことは、大変なことです。
この方々をいかにフォローするかは、
出向をさせる側も、受け入れる側も大きな課題だと考えます。

人間は生き物として環境の変化に大きなストレスを感じる

人間は、生物として環境の変化に、
本能的に大きなストレスと感じるようです。

出向先の受け入れ体制がうまくできている
恵まれた状況であったとしても、
出向者は強いストレスを感じるということです。

人間は、環境が変わると、そこが「安全なのか?」が
確認できるまで、本能的に警戒モードが続き、これが大きなストレスとなります。

この時、多くの出向者の方は、
「なぜ出向しなくてはいけなかったのだろう」という疑問が、
頭のなかでリフレインしてしまいます。

本能的に「ここは安全だ」と確認できるようになるためには、
時間が必要で、約2~3ヶ月がかかるという研究もあります。

「職場に慣れた」という言い方がありますが、
脳がようやく「ここは安全だ」と認識したということにほかなりません。
その頃には、先述のリフレインはなくなっています。

繰り返しになりますが、ここで強調したいことは、
出向を経験される方には、大きなストレスがかかるということです。

企業として、周囲の方として、出向の方をフォローするには

では、このストレスを多少なりとも軽減するためには
どうすれば良いかということが問題となります。

もし出向者ご本人であれば、
「ストレスを感じることは普通だ」、
「生物的に妥当な反応をしている」、
「自分だけではなくこの状況では、皆ストレスを感じているのだ」
と受け止めていただくことが、一定の心理的な防壁となります。

また、その日一日を乗り切ることだけを考えて、
目の前の仕事に取り組んでいくことも大切です。

一日乗り切れば、それだけ脳がその環境に慣れるのです。

長期的なことをどうしても考えてしまいがちですが、
冷静に長期的なことを勘案しながら行動できるようになるのは、
脳が「ここは安全」と認識した2~3ヶ月後からとなります。

まずは、環境に慣れることが自分の一番の仕事と
割り切ることも必要だと考えています。

出向されている方を、フォローする周囲の方としては、
まず、出向者の方には大きなストレスがかかっていることを
理解しておくことが重要です。

そして、なるべく休むことを勧め、
睡眠時間を長めにとってもらう、お風呂にゆっくりと浸かる、
好物を食べるといったことを意識して行ってもらうように
することが大切です。

こうした記載をいたしましたのは、私自身が辛い転職を
経験しており、受け入れ先企業の状況に関わらず、
自分自身が望まない転職は大きなストレスがかかることが
骨身にしみて理解しているからです。

もし、周囲にそうした方がおられましたら、
(あるいはご自身がそうであったとしましたら)、
本日の記事を参考にいただければと思っています。

まとめ

出向者の方には大きなストレスがかかります。
ご本人も、周囲の方もそうしたことをご理解いただく
ことが重要だと考えています。

辛い時期というのは、その渦中にいますと、
永遠に続くように錯覚してしまいがちです。

しかし、ものごとは少しずつ変化していくのが世の常です。

自分自身も、周囲も、環境も変わっていき、
ある臨界点を超えた時に、辛い時期が脱出できたことに
気がつくことができます。

新型コロナウイルスは、多くの方の生活に
多大な影響をもたらしました。
なんとか辛い時期をやりすごしていくことは、
社会の課題でもあると考えています。

「新常態」の時代においては、
これまでとは異なる、新しい価値提供が求められ、
そこに企業としての価値や、仕事の意味が見えてくるはずです。

価値転換の時期には、社会全体に大きなストレスが
かかりますが、しばらくすれば自然と状況が整いますので、
今をやり過ごすことが重要だと考えています。

本日も最後までお読みいただきましてありがとうございました。

タイトルとURLをコピーしました