「ジョブ型雇用」について、日本企業においても
積極的な導入の検討が行われています。
私個人の見解としては「ジョブ型雇用」を
多くの日本企業で「すぐに」導入することは、
リスクが大きいと考えています。
それは次の2つの理由によるものです。
複数の人材で対応する場合がある。
切り分けた後の業務をもう一度統合
する人材が必要だが、業務統合を担える人材が少ない。
関わり、関心を持つ要素があった。
他部署の業務と関わり、関心を持つことは、
新しい取り組みを行う際に、大きな力を発揮していた。
これがジョブ型雇用の導入でなくなる恐れがある。
上記については、
以前の下記の記事に詳しく解説しています。
一方で、特に経団連が、「ジョブ型雇用」の推進を
進めていますが、その背景には
メンバーシップ型雇用について「短期的」に見れば、
グローバル競争に負ける可能性があるという考え方があります。
今回は、ジョブ型雇用が
推進されている理由について、背景から考え、
今後、導入を検討する場合、
より安全性の高い進め方についても
解説していきます。
ジョブ型人材の制度導入が注目される背景
ジョブ型雇用の推進がされている背景には
「グローバル化」 「DX推進」 「コロナウイルスの影響」
の3つの状況があります。
「グローバル化」については、
世界の多くの企業がジョブ型雇用を導入しており、
グローバルで人材を獲得していくためにも、
グローバルで一般化している「ジョブ型雇用」を
導入したほうが良いという考え方です。
「DX推進」については、グローバルで動きが活発となっており、
これらを担うDX推進人材の獲得競争が激しくなっています。
その結果、DX推進人材の給料が高止まりしており、
既存の人事体系での一般的な給料水準では、
雇用が難しいという状況が出てきています。
これを解決するために、
給料水準を高くした人事コースを設定したり、
あるいは別会社を作り、新たな給料制度で対応するといった
特定職種を重視した人材マネジメントが必要となり、
そのためにジョブ型への転換が検討されています。
「コロナウイルスの影響」については、
働き方が変化したとことがあります。
在宅勤務やテレワークが一般的となりました。
テレワークの状況下では、
お互いの仕事の進捗を間近で見ながら、
不足している部分を補うという働き方ができません。
そうなると、行う業務内容を
事前にきっちりと定義しておく必要がでてきました。
ジョブ型雇用では、
ジョブディスクリプションによって
何を行うべきかをきちんと定義します。
これまで日本企業では
ジョブディスクリプションの作成は大きな労力がかかるため、
大きな課題と捉えられていました。
テレワークによって、
不完全ながらも職務定義を行われた側面があり、
ジョブ型雇用への移行もスムーズに行くだろうとの考えから、
ジョブ型雇用推進が検討されています。
さらに奥にある「ジョブ型雇用」推進の背景
日本企業が「ジョブ型雇用」を
推進する根本的な背景には、
グローバル競争のなかで
「終身雇用」を続けていくことが現実的に
難しくなっていることがあります。
多くのグローバル企業では、
ジョブ型雇用を採用しています。
ジョブ型雇用を採用している企業と
終身雇用を前提としたメンバーシップ型雇用が
グローバル競争をするなかで、
厳しい状況があるようです。
単純化して考えてみます。
同じ程度の規模、技術力で
終身雇用形態の企業と
人材の流動性が高い企業とが
競争をした場合、有利に見えるのは
どちらでしょうか。
人材の流動性が高い企業は、
その時代に合わせた、
最適な人材が採用できる可能性があるため、
有利であると考えられます。
また、終身雇用の悪影響として、労働意欲が低下している
という考え方もあります。
人材の流動性を高めることによって、
既存の社員も、自分自身のスキルアップを常に図る
ことにつなげ、生産性を上げたい
という経営の思惑も垣間見られます。
ジョブ型雇用の推進の背景には、こうした考え方があります。
雇用の流動性を高めることは、人材確保が困難になることでもある
上記の解説をお読みいただくと
グローバル競争の激しい現代においては、
ジョブ型雇用の推進は正しい施策のように見えます。
しかし、別の側面として、
高いスキルを持った人材について、
報酬や労働条件が他社と比べて良くなければ、
他社へ転職してしまう可能性が高くなります。
「雇用の流動性」と書くと、
必要な時に、必要なスキルを持つ方を採用でき、
働く側としても、
良い会社を次々に転職できる可能性が高くなる
というイメージがありますが、
現実には、高いスキルも持った人材の数は
多いと考えにくいため、
人材確保が難しくなる企業が増えると考えられます。
専門スキルを持った人材ばかりとなると、
ジョブローテーションという動きも難しくなることから、
たとえば、社内で急な欠員が出たとして、
別の部署から応援でなんとか対応するということも難しくなります。
自社でジョブ型雇用を検討する際の注意点
日本企業の特徴であったメンバーシップ型雇用の
価値観の根底にある「終身雇用」が
継続できないという課題があることを述べました。
こうしたことを考えると、
いずれ多くの日本企業で、ジョブ型雇用を
導入せざるを得ない状況となるとも考えています。
そこで是非、念頭に置いていただきたいのは、
他社で行われている「ジョブ型雇用」の仕組みを
そのまま自社に取り入れると失敗する可能性が高いということです。
自社として、どのような働き方を実現するか、
そのために制度はどうあるべきかを考えて、
制度を自社に合った形でカスタマイズする必要がある
ということです。
こうした雇用制度は、実際に運用してみないと
見えてこない課題も多くあります。
これに備える方法として、前回も説明しましたが、
たとえば、シェアードサービス化が可能な職務領域のような
一部について、ジョブ型雇用を導入してみるというのがあります。
シェアードサービス系の場合は、
業務の切り分けが行いやすいため、
ジョブ型雇用を試験的に運用するには適していると考えています。
そこで知見や育成制度のあり方を補強しながら、
本当に全社的にジョブ型雇用を導入すべきなのか、
導入する場合には、どのようなカスタマイズが必要かを
考えていくというのが、安全だと考えます。
本日も最後までお読みいただきましてありがとうございました。
書籍のご紹介
ジョブ型雇用について、自社が採用するか否か、
どうカスタマイズすべきかということを考えるうえで、
対義語となるメンバーシップ型雇用について、
知っておくことが鍵となると考えています。
どのような経緯で日本に
メンバーシップ型雇用が定着したか
あるいは海外ではどうであったのかについて、
下記の書籍が参考になります。
歴史的経緯が明らかになりますと、
現在の状況との差異も見えてきますので、
雇用についての課題を考える切り口となります。