前回の記事では、
注目が集まっている「ジョブ型雇用」と、
多くの日本企業で行われている
「メンバーシップ型雇用」のそれぞれの特徴について記載しました。
現在の、グローバル化、DX推進、コロナウイルスの影響
という状況から考えますと、
ジョブ型雇用を企業制度に取り入れていくことは
一見、正しいようにも思えます。
しかし、もし導入を検討されている企業の方は、
次の2つの課題について、
留意しておく必要があります。
1)業務統合人材の必要性
2)メンバーシップ型の状況だからこそ生まれた価値がある
この2つの課題について、現在のところ
解決の筋道が見えていません。
そのためジョブ型雇用のすぐの導入には慎重であるべきだと
考えています。
ジョブ型雇用を推進しているコンサルタントなどの
説明では、この2つの課題について触れられていません。
その理由は、この2つの課題が、
実際に導入した企業で、数年経たないと
見えてこないものだからです。
この2つの課題は、大手製造業でジョブ型雇用を導入した
企業の問題意識のヒアリングから見えてきたものと、
海外企業における実際のジョブ型雇用運用について
日本企業にどのような違いがあるかという観点から
見えてきたものとなります。
次の章から、2つの課題について詳しく見ていきましょう。
ジョブ型雇用の2つの課題
業務統合人材の必要性
ジョブ型雇用では、会社の仕事を
切り分けて、それに対して適切なスキルを持った人材に
振り分けるということを行います。
切り分けられた業務については、
会社全体から見た仕事として完成させるためには
統合をしていくことが必要となります。
統合を担当するのが、「業務統合人材」となりますが、
日本企業の多くが、
統合業務を行うことができる人材が育っていません。
この業務統合人材は、
最初の全体設計から主導的な立場を担う必要があり、
(むしろそちらがメインの業務となる)
非常に高度で、特殊な業務となります。
どのような製品、サービスであるのか、
あるいは事業であるのかといったことが、
業務統合人材のなかで、
明確になっていなければなりません。
業務統合の前提として、
全体設計を含めたプロデュースの仕事があるということです。
単純な業務や、シェアードサービス化できるような業務であれば
業務統合人材は必要ないかもしれません。
しかし、大きなプロジェクト、あるいは企業全体として動く場合は、
業務統合人材が必要となります。
海外企業においては、
業務統合人材が、重要なポジションに位置づけられており、
大きな権限を持って、仕事に取り組む仕組みが
整えられています。
たとえば、ある海外企業では、業務切り分けについて、
インターフェイスすらも区切り、
業務統合人材と作業人材が、1対1の関係でやり取りを行い、
作業人材が横で情報を共有できないような仕組みにしています。
作業人材は、自分の業務が、
全体のどの部分を担っているかも分からない状況となり、
サービスや製品がリリースされた後に、
なにを行っていたかを知るというケースも多々あるようです。
なぜこのような情報共有ができない仕組みにしているか
というと、情報漏えいを危惧しているためとなります。
ジョブ型雇用は、
仕事に人がつくことから、会社を移っても
同じスキルを活かすことができます。
そのために、雇用の流動性が増すわけですが、
表裏として、他社への情報漏えいの危険性が増すことに
つながります。
業務統合人材は、事業の核となる存在ですから、
他社に引き抜かれないように、
相応の給料と職位が約束されるという形となります。
メンバーシップ型雇用の場合は、
たとえばプロジェクト参加者全員が、進捗状況を理解しながら、
足りない部分を助け合って業務を進めてきました。
言い換えれば、業務統合人材の必要がありませんでした。
これまで業務統合人材の育成の機会がなかったということです。
業務統合人材の代表例として挙げられるのが
アップルのスティーブ・ジョブズです。
ジョブズが活躍していた時代のアップルでは、
完成図は、ジョブズの頭のなかにあり、
それを実現するために、専門的スキルのある人材が、
意図的に切り分けられた業務対応を行い、
ジョブズが再度、業務を1つにまとめあげるということが
行われていました。
しかし、ジョブズのような特殊で、卓越した能力のある
いわば天才的な人材でなければ、
実現は難しいのではないかと考えています。
一部の天才が主導していく働き方は、
ベンチャー企業などを除いて、一定規模以上の日本企業では
現実的ではないと考えています。
協働を前提として、業務を進めていく方法と、
ジョブ型雇用は相性が良くないと考えています。
メンバーシップ型の状況だからこそ生まれた価値がある
ジョブ型雇用の場合、
各人が行うべき仕事がきっちりと定義されており、
そこから出た部分については、
別途企業側と相談のうえ、対応をする形です。
この仕組みは、制度上、
他の社員がどのような業務を行っているのかについて、
関心が薄くなる、あるいは聞きにくくなるという特徴があります。
一方で、メンバーシップ型雇用では、
大きなメリットとして、
「他の部署の業務にも関心につながる」ことが挙げられます。
これまで日本企業では、
メンバーシップ型雇用が長く行われたきましたが、
他の社員の方の業務に関心を持つことで、
新しい製品や事業のプロジェクトを進める際に
多くの部署の方が、様々な角度から意見が出ることにつながり、
これまでとは異なるイノベーションを生み出す可能性を高めていました。
たとえば、有名な例として、
本田技研工業では、
部署、職位に関わらず、意見を述べ合うなかで
新しい価値を見つけようとする取り組み
「ワイガヤ」があります。
日本企業には、「ワイガヤ」的側面から
新しい取り組みを行うという特徴が少なからずあり、
それが、新製品や新サービスのクオリティを高めていました。
直接的ではないにしても、
強さの大本にはメンバーシップ型雇用があったということです。
ジョブ型雇用の場合、先の「ワイガヤ」などは、
職掌範囲を超えた業務と考えられるケースが多く、
取り組むためには、さらになんらかの施策を展開していかなくては
難しいということになります。
ジョブ型雇用の導入を検討するに際し、注意すべきところは、
メンバーシップ型雇用を源泉として
アイデアや意見が出てくる価値について減衰する可能性があること。
そして、ジョブ型雇用に切り替えた「直後」には、
その減衰が実感されることがないという点です。
メンバーシップ型雇用の際に、構築された関係性の
慣性が働くためです。
しかし、いずれ慣性は途切れ、
先述の力を削ぐ結果につながったことに
つながる可能性が高いと考えています。
ただ、慣性による原因と結果のタイムラグが
あるため、気づいた時には、ジョブ型からメンバーシップ型への
切り戻しが難しく、少しずつ弱体化していく
という懸念があります。
まとめ
上で説明した2つの理由から、
現状すぐに「ジョブ型雇用」の導入は、
慎重であるべきだと考えています。
ただ、ジョブ型雇用について企業が推進する背景には、
日本企業の特徴であったメンバーシップ型雇用の
価値観の根底にある「終身雇用」が
継続できないという別の課題があります。
こうしたことを考えると、
いずれ多くの日本企業で、ジョブ型雇用を
導入せざるを得ない状況となるとも考えています。
これに備える方法として、
たとえば、シェアードサービス化が可能な職務領域のような
一部について、ジョブ型雇用を導入してみるというのがあります。
シェアードサービス化が可能な職務領域であれば、
業務統合人材が、必要不可欠ではないからです。
一部のジョブ型雇用を導入しながら、
業務統合人材の育成を図るというのが、
現実的な動きだと考えています。
最後までお読みいただきましてありがとうございました。